学会等報告国際虐待防止学会ヨーロッパ会議ダブリン2013への参加報告

更新日: 2013年10月16日

ISPCAN(国際虐待防止学会)のヨーロッパ会議に参加するのは初めてであるが、結論から言うと非常に有意義だった。理由は、既に虐待対応で先進国の代表であり世界でもトップクラスの現場支援者と研究者、行政職のコラボレーションを身近に接することができたからである。サッカーで例えるなら、ISPCAN国際会議をワールドカップとすると、ISPCANヨーロッパ会議はUEFAチャンピオンズリーグと言えるだろう。非常にエキサイティングなディスカッションと、現場と研究者と行政職が国というボーダーと日頃の役割を超え、Child Firstという視点に立ち、自由かつ対等にプレゼンテーションができることは、虐待対応におけるTED talkのようなものであった。
非常にクリアで、現場ですぐ役立てられる知見はもちろんのこと、3年先、5年先、10年先の虐待対応の指針を示すようなセッションにも激しいディスカッションとスタンディングオベーションの嵐。本稿では、その一端をお伝えするべく、私が参加した内容について、その体験をまとめる。

●Keynote1:David Wolfe教授(University of Toronto) 虐待を減らしていくために、今できる対応の一つは、小中高校での子どもの発達段階に会わせた段階的かつ継続的な予防教育であると明確に指摘した。 特にオンタリオ州(カナダ)では、いじめ・デートDV(デートレイプ含む)・薬物・虐待・健康問題・セクシュアリティ(LGBT問題を含む)を全て盛り込んだ“The Fourth Rプログラム”を紹介していた。
The Fourth Rのサイトはこちら⇒http://t.co/LLCC1rxVSP
既に、The Fouth Rプログラムは、RCT(ランダム化比較試験)でのエビデンスも確立され、オンタリオ州では、The Fourth Rの導入はエビデンスの提示と教育現場との長期的な協働によって進められているとのこと。確かにこれらの内容を全て盛り込んで、長期的に取り込めるのは非常に大事である。そして、日本で行われている予防教育の研究は、事前・事後及びフォローアップで3か月後、6か月後の研究がほとんどだが、欧米では予防教育はロングタームでの効果の持続を見ないと意味が無いとされ、年単位でコホートとしてフォローアップをしていくことが重要視されている。 Keynoteで紹介されていた研究結果の一端は、The Fourth Rの暴力防止に関して特に男子の暴力減少率がRCTにおけるコントロール群に対してオッズ比2.77倍(95%CL≒1.3~5.2)であった。研究におけるリクルート数は2,000人を超えるレベルであり、教育現場との長年時間をかけた理解と協力を求めた結果であることがよく分かる。 この点で読者に注意して頂きたいことは「この対象者の数は欧米だからできたこと日本だとできない」という早合点である。カナダであっても、当初教育機関との連携に骨を折り、教育機関が困っている問題に耳を向け、このプログラムの導入について理解と協力を求めながら、実践と研究を両方で進めて粘り強く年単位で進めてきた結果であることを合わせて伝えておきたい。

●児童相談所、市区町村、行政、大学の協働に関するシンポジウム
1)行政との協働について
アイルランドでも行政と地域の支援機関の連携については、当初、行政から現場の支援者の数は増やしてくれないのに、現場レベルで虐待対応の要求水準を上げる一方、行政側は虐待対応の施策は改善しないという側面があり、現場と行政担当者で相当ぶつかった歴史があると報告されていた。 そのような現状を打開したきっかけは、行政と現場が協働し、虐待問題に関するコホート研究を行い、現場のエビデンスを示すことにより、現場と行政の話し合う土壌が出来たそうである。 例えば、コホート研究の一例としてフォローアップを行った内容は、一次予防としてアイルランド・UK・スペインで共通して行っている段階的なプログラムPCPS:The Parent-Child Psychological Support Programの実施と評価である。
PCPSについてのサイトはこちら⇒http://t.co/CQxNLy2NHP
私の印象では、PCIT(Parent-Child Interaction Therapy)の予防教育版のようなイメージである。
PCPSについても一次予防の教育内容は、大体その他のプログラムと変わらないものの、そのユニークさは、PCPSのセッション内で保護者の子どもへの対応やロールプレイをiPadなどでビデオに撮り、その内容を元にビデオフィードバックやディスカッションを行っていく点であった。PSPCについても効果研究を必ずセットで行っており、エビデンスも確立されている。
プログラムもやりっ放しではなく、既存のプログラムと比較し、エビデンスを出すのが当たり前(どの部分がどの程度改善したのか)になっており、さらにそれを広めていくための戦略として、PSPCの紹介webサイトの見た目も情報量も充実している。説明責任だけでなく、魅力を伝えるためのプレゼンテーションについても十分に準備されているところは、今後日本も参考にできるところであろう。
ただ、虐待予防プログラムは既に世界中にありふれている印象である。もちろん一つひとつにメリット・デメリットがあり、どの対象者に有効であるかを纏めるポータルサイトが必要であろう。そのため、今後は、各プログラムの効果について、量的又は質的に共通要因とそのための工夫をコクラン計画のようなポータルサイトに纏め、それを元に毎年予防教育に必要な項目をアップデートし、それを応用するシステムがあると、各国で文化的要因を考慮しやすいという印象を受けた。
欧米のプログラムに効果があるのは分かるが、日本にそれを輸入した際に、バックトランスレーションを行い、評価の質問紙についても独自の物が使われているならば、日本語版の信頼性・妥当性を確認して・・・という一連の標準的な効果測定の流れを全て一から工面するのは、現場としても非常に手間であると思われる。今、目の前の子どもに有効な予防プログラムを提供するために、その実践と導入方針についてもより合理的なシステム運営と手法の検討が必要ではないかと感じた。

2)現場における研究者と実践家をつなぐために
報告者から、研究者と現場の実践者をつなぐには、研究者やリーダーシップある人達が現場批判するのは逆効果であろうという提言があった。現場の実践者達に対するフィードバックは、現場がまず効果的に適切な対応をしていることをデータに即して後押しし、現場の支持とエンパワメントから始める。そして改善点として客観的な事実を伝える意識が不可欠であると言う。
また、現場でのMDT(Multi-Disciplinary-Team)の協働にはごく自然なこととしてPositive&Negativeな関係性を行き来するものだから、ケース会議や事例検討にLearning Process(お互いに学び合うプロセス)を目標設定することがとても大切だと話していた。この点は、ごく当たり前のことだが、現場にいて、特に困難事例の場合、その当たり前もしっかりと言語化して確認することが必要なのだろう。「当たり前のことだから、みんな分かってるだろ!」という支援者の意識は、時に渦中のケースにおいて連携で「なんで分かってくれないんだ!?」という誤解や齟齬を生む温床となりやすい。当たり前のことを各ケース会議で言語化して毎回設定することが大切だと、改めて原点に戻るべき視点を提供された。
また、現場との研究は、研究者がやりたいことではなく、現場のニーズに即してやる。これは世界共通らしい。誰だって知らない人からネガティブ評価をされるのは嫌であり、だからこそ現場が困っているところを研究で一緒に考え、行き詰まった視点を一歩引いて見直すために研究者と現場の実践者が協働する。その積み重ねにより先進的な研究ができるという。
この視点を元に私なりに考えてみると、現場の実践と研究の協働にもやはり信頼関係とその成熟度があるのだろうと感じる。医療について言えば治験が既にベースになっており、実践と研究がほぼ義務になってるからこそ、「研究しないなんてありえないよね?」と医療側からは言えるだろうが、福祉はまだそこまでいってないという印象が私にはあった。

また一方で、研究者には「なんで福祉は研究しないんだ!」「研究に現場の支援者は協力してくれないんだ!」と言っている人もいるが、前者は先のような信頼関係の問題である一方、後者は現場が困っている内容に耳を傾けず、やりたい研究だけをしようとし、研究者から現場に出向いて一緒に考えるとっかかりを作ってないからだと推察された。 特に、現場にいてよく経験することは、研究者が虐待問題について現場に挨拶もなく、また研究計画も添付せず、不躾に質問紙だけを送ってくることである。正直、私も現場に居たときのことを思い出すと、学生の卒論や修論クラスから大学の教授クラスまで、そういう研究の仕方をしている人達は少なくないと思われる。語弊があるかもしれないがこのような研究の仕方は、現場感覚からすれば「忙しいのに、礼儀を知らない痴れ者め!」という怒りを買うことになる。一方、「研究が当たり前なのになんで協力してくれないんだ?」というバイアスを持った研究者からすれば、結果、論文内には“回収率○%”という記述だけで終わる。この辺は、日本はまだ研究と現場が協働するためにディスコミュニケーションになっているのだと思われる。
もちろん、このことは、日本の福祉はダメだということでは一切ない。要は一歩一歩積み重ねていけばいいわけで、欧米並みの先進的な虐待対応に向けたSocial ChangeとInnovationは直ぐに起きるわけでもない。研究と実践、全ては、当事者である子どもと家族のQOLを高めるという目標は同じなので、一緒に協力していくためのとっかかりを作ること、とっかかりの種類を増やすこと、とっかかるためのプロセスを経験知・臨床知としてまとめていくこと、協働することによる現場と研究の成功体験を蓄積すること、につなげていければ良いという思いが強くなった。この感覚は、新しいアイデアを導入するときの規模にも影響するだろう。例えば、日本では、行政が取り入れやすく、新しい変革が起きやすいのは「隣の都道府県がやってるらしいよ。うちもやってみる?」という流れであるのに対し、欧米だと「隣の国がやってるらしいぞ。うちももっとイイの作れ!」という流れがあると思われる。規模と国民性や文化も違うが、どちらも良い意味での競争原理なのだ。

●現場のリスクアセスメントって本当に機能してると思うかい?というセッション
UK児童相談所福祉司と市区町村精神保健福祉士の方が企画をしたセッションである。“現場でRisk Assessmentってマジで機能してる?”というインパクトある題名である。もちろん私が訳しただけだが、報告者の企画意図としてはそのようなニュアンスである。
このセッションでは、現場の多職種が本テーマについてきちんと検討すべく、定期的に研究会を開き、皆で意見を出しながらまとめた質的研究である。なぜこの議論がUKで必要になったかと言うと、都市部でケース数が増え、ケースに現場支援者達が忙殺されると、同じリスクの子どもに対してケアにかける時間が減っているということが、各児童相談所の統計で表れ、同時にその感覚は現場の支援者達の中でも感じられていたからだと言う。 このままではまずいと感じたために、そのような感覚を乗り切るために、現場の多職種が皆で議論し合い、生み出された答えはというと、
①担当ケース数をリスクに応じて色分けし、ボスに見える化する。
②そろそろシステム自体が疲労しているし時代遅れになってきているから、より良く変えないか?と現場から提案する(事実UKではWorking Togetherが少しずつアップデートしてきている)。
③ケースに忙殺されていると立ち止まることがない。そのため一日の中でも例え3分でも意識的に立ち止まる時間をあえて必ず取り、今の支援方針がどこに向かっているかを考える。そして自分達のリスク判定次第で子どもと家族が揺れることを思い出す。
④リスクを把握するために、既に観察されている確かなことと、調査をしてもわからない・不確かなことに線を引き整理する。
⑤リスクアセスメントツールを使っても人によってリスクだと思う内容が違うことを再確認し、話し合う。
⑥介入のための意思決定の手続きと、ツールの関係性を意識する。最終判断はツールではなく、現場の人間であるため、ツールの機能のみに振り回され「過ぎない」ようにするという内容が共通してボトムアップに見出された。
いかに先進的な虐待対応を持つUKだろうと日本だろうと、人間のエネルギーと時間には限界がある。では、そのような中で、どうしても現場でリスクアセスメントツールでも子どもの安全を把握出来ない情報があるとき、現場からボトムアップに作られた意思決定の手順は、①介入前~介入時の担当の多職種を混ぜて会議。それでもダメな時は②支援~行動観察中の多職種も混ぜる。それでも把握できない時は③子どもの安全を優先しつつ、ケース会議のリスク判定に当事者である養育者を混ぜるという手順になるそうだ。

1)保護したけれども、リスクはなく安全であった場合の対応
UKにおいてリスクアセスメントに基づき子どもを一時保護したけれども保護が過剰である場合がある。これはリスクアセスメントと児童相談所の対応が決して間違っていたわけではなく、調査前は、子どもの安全が観察不可能であったり、不確かだったけれども、調査をしてみたら、子どもの安全が十分だと把握された場合である。ただ、児童相談所の判断としては合理的であったとしても、当事者として保護者が子どもを保護された(=児童相談所に奪われたという感覚)ことによって傷つくことは往々にして存在する。そのような事例研究を現場と大学が協働して纏めた研究である。
UKでも、子どもを死なさない(虐待死亡事例を防ぐ)ために保護者との関係よりも子どもの安全を優先せざるをえない。ただ、子どもが結果安全であった場合、その傷つきによる親への支援もないと言う。では、現場の支援ではどうするか?協働研究から見出された知見は、
①子どもの安全を守るために、今後あなたはどのような責任を持って対応できるか?理解と協力を求める。
②必ずFamily Group Conferenceとして市区町村とのケース会議に養育者を呼ぶ約束をする。
③子どもが保護されてから、保護解除に至るまでの間、保護者は“どれだけ支援者にむかついたか?(=保護者から見た支援者の対応で良くなかったと感じられた点、イライラした点、傷ついた点等)”を具体的に紙に書いてもらう。
特に③は書いてくれる方とそうでない方がいるが、書いてくれる保護者は“自分の子育てがどういう風に支援者から見られて嫌だったか”、細かく教えてくれる。それに支援者は耳を傾けて、今後の安全について保護者と話し合うことができると言っていた。 一部繰り返しになるが、注意したい点は、保護者との対立関係を恐れ、保護者との関係性を優先し、子どもを保護しないということは絶対にない。社会的にリスク管理のためにはどうしても優先せざるをえない。即ち、子どもの安全についてオーバートリアージをしなければ、子どもの虐待死亡事例は減らせないからである。
だが、もし子どもの安全についてオーバートリアージで保護した結果、子どもの安全が調査をした後に確認された場合については、子どもと保護者に関わる支援者は、子どもを取られた苦しみ(分離)と社会的に疑われた苦しみ(社会的な孤独)という保護者のDouble Sufferingを知ってケースに臨むことが大切だと言っていた。これは現場でも非常に大切な指摘である。

2)介入としてのChild Protectionと支援としてのSocial Work
Working Together施策にも関わるParton N氏曰く、やはりUK国内でも、組織で子どもの保護と支援を分けていても、支援者自身または支援者同士でも葛藤があるらしい。特に子ども又は被虐待歴のある保護者へのトラウマケアを担当するSWと子どもの保護を担当するSWの意見が異なる場合、最もその対立がUK内でも起こりやすいと言われていた。
そのため、今後次世代のSWを教育機関で育てるためには「介入≧支援」の優先順位はシステムとして維持しつつ、UKにおけるWorking Together施策として介入のChild Protectionの専門性を、支援のSocial Work学から独立させて考え始めないか?と提言していた。それについては医療-福祉-司法のMDT研修が既にUK内で条件となっているため、さらなる専門性の分化と確立、共存の視点ならば、私もこの分離は非常に重要だと考える。

●オンラインによる性虐待(性的グルーミング)の研究進捗
Online Groomingについての発表を見ると、発表者のほとんどは、ヨーロッパの大体の国では、Child Exploitation and Online Protection Centreのような大学内や研究所内に部署があり、そこに所属しつつオンラインでの性的虐待(グルーミング)について調査と研究をしていた。
Child Exploitation and Online Protection Centreでは、被害を受けた子ども達と加害者の研究を深めており、その結果、加害者の手口が非常に巧妙で、思春期の不満や困難に共感的にセラピストのように振る舞い、ある種の陽性転移を利用しながら、性的な関心を動機付けつつ、児童は話を聞いてくれる返報性に断れない力動があることを質的研究で仮説生成していた。
現在明らかになっているOnline groomingの手口は(Whittle et al,印刷中)、
①子どもの味方になってくれそうな加害者の第一印象、
②加害者から子どもに定期的or積極的なコンタクト、
③子どもと秘密を共有する、
④子どもの性的関心を引く、
⑤加害者がやさしい&ほめる、
⑥加害者が子どもにたまに恐い&ひどいことを言う、
⑦加害者がオンライン上で他の子とも仲良くして嫉妬心を煽るものとされていた。
この発表者のプレゼンテーションを聞いていると、オンラインの性的グルーミングは、居場所を求める子ども達が引っかかるようで、ICT-based CBTと真逆のコミュニティになっている気がした。これはリアルな現場にもありえることで、支援に引っかからない又はドロップアウトした事例に似ていると感じた。
また、先ほどのWhisttleの研究は、子どもが被害に巻き込まれない、又は巻き込まれても援助要請をどうするかの防御因子を現在まとめているそうで、2014年のISPCANの発表が楽しみである。
途中経過とはいえ、Online groomingに関する手口を本稿で明らかにすることにより、加害者が参考にするのでは?という意見が出てくると思われるが、事実としてそれは認めつつ、一方で今被害を受ける子ども達の予防と介入啓発につながる可能性のほうを高くしたいと思い、本稿をまとめた次第である。

●CACの導入プロセスとエビデンス
次は性暴力被害を受けた子どもに何度も大人から話を聞かないで済むように司法面接とCAC(Child Advocacy Center)のシンポジウムである。北欧はアイスランドのBarnahusモデルがCACの元になって展開していった。
Barhausモデルについてはこちら⇒http://t.co/Ea3E8WNePo
Barnahusモデルは、CACとして北米が提唱するNCACモデルに加えて、研修と研究機関を備えている。アイスランドでは、15年間で3,500人の子どもの①全身医学診察、②司法面接、③TF-CBT、④家族支援、⑤地域のネットワーク作り、⑥研修と研究による評価を行ってきた。現在、オランダ、クロアチア、トルコ、ポルトガルもBarnahusを真似てCACを作っているとのことであった。

1)ノルウェーにおけるCAC導入の経緯
ノルウェーでは、CACを作るまでに5年かけて地域との連携を図り、共通したガイドライン作成、研修の提供をまず行ったという。地域の支援機関にある程度の事前の根回しを行い、大きな性虐待に関する学会の大会宣言をメディアに広報してもらい「おまえ、子どもに関わる専門職なのにCACを知らないの?新聞読んでないな」という流れでCACのリテラシーを高めたようだ。
ノルウェーでもBarnahusモデルを採用しているが、医学モデルと支援モデルの垣根を越えるためにはエビデンスという共通の土俵が必要だったと報告されていた。そのため、児童相談所での受理から介入、司法面接実施前と後の様子など共通の入力フォームを設計し実践でも研究でも活かせるシステムを作るところから始めた。これは参加者である私の印象だが、ノルウェーでは福祉重視で疫学研究もある程度進んでいる(はず)なので、福祉も研究するのが当たり前だよね?という現場と研究の信頼関係と成熟度が高い感じがした。
演者も、当然、実践・研究のエビデンスが必要だ!という印象の発表であった。
そして、CACを導入し今年で10年経ったノルウェーのCAC現場から、今後さらに枠組みや対象者を拡大すべき検討項目として、
①DVと加害者もCACで調査対象ケースや対象者としていくこと、
②15歳以下及び養育者が精神障害等で話に信頼性がない場合には、全ケースCACを絡めること、
③子どもが話ができない時又は養育者が精神障害等で話に信頼性がない時は、現在の司法面接1回施行のルールを外すこと、
④DVと性虐待に関する子どもへの司法面接は受理後1週間以内に行うこと、であった。

2)スウェーデンのCAC研究から
スウェーデンの今までの全CAC対応データを分析すると、80%のケースが①医学的全身診察、②司法面接、③裁判判決、④TF-CBTの開始、⑤家族支援、⑥介入の適切さについてレビュー&フィードバックが、受理日から90日以内に全て完了しているとのこと。 ちなみにスウェーデンの全CACでは小児科医ではなく、研修を受け普段から子どもの診察になれている法医学者が全身診察の対応をしているそうである。スウェーデンのCACは2部屋運用が3機関、3部屋運用が16機関、4部屋運用が4機関と報告されていた。リアルエステートとして建物にお金がかかるという意見もあるが、スウェーデンではプレハブ(寒いから暖房は完備)、あるいは地域の空き部屋を購入し、子どもにとって居心地が良いように改造したそうである。たった3部屋程度の施設でも、子どもにとっても地域の各機関にとっても有用であることが、その後のCAC設置を進めた理由と言われていた。

3)USのCAC研究から
USのCACでは2012年286,457人を対応した内、CACで子どもが開示しなかった又は医学所見無しで、なんの手がかりも得られなかったのは約1,200件(0.4%)であるという。性虐待は197,902件担当され、身体的虐待、ネグレクト、暴力の目撃、薬物虞犯、その他についてもCACが残りの件数を児童相談所調査・警察&検察捜査と協働して担当したという。 CACで対応した場合と、CACにつながず独自に児童相談所や警察が調査した場合を比べると、CACを絡めて対応した方が、独自に児童相談所や警察が捜査する場合よりも、性器挿入が無い性虐待は4倍子どもが被害を開示しやすく、また、性器挿入がある性虐待は1.5倍開示に導きやすい(Walsh et al,2008)。また、CACを絡めた多機関連携による調査は平均して2,902ドル、一方CACを絡ませず独自の多機関連携による調査は3,949ドルかかっており、CACを多機関連携に組み込んだほうが、虐待対応の平均ランニングコストを36%カットできる(Formby,2006)という。 これは、福祉経済学において、限られた人件費削減だけでなく、現状のマンパワーにおいて限られたケース対応の時間をもっと有用に活用できる可能性も秘めているであろう。 最後に、CACにおけるマネージメントの鍵は、質が管理されたリーダーシップであると纏められており、全米でのCAC導入が性虐待だけでなく、全ての虐待とDVやいじめ、薬物など、子どもにとってのMulti-Victimizationsを統括して担当する効果が改めてエビデンスを通して明らかになった。



●基調講演:虐待対応におけるビッグデータ活用のためのEvidenced-Informed-Practiceと意思決定/Aron Shlonsky教授(メルボルン大学・トロント大学) 冒頭で、今まで虐待対応における“エビデンスベースド”をいう言葉を“Evidence-Based-Medicine”から借りて使っているが、他にもいろいろ表現がなされていることを紹介された。そして今後は、Bio-Psycho-Social各分野の多職種が協働する虐待対応分野では“Evidence-Informed-Practice”を使用するとの話がなされ、略してEIPというのが今後のトレンドになる。 ただし、Shlonsky教授は、Evidence in Not Deterministicと断った上で、オンタリオ州ではToronto大学が行政・児童相談所に対して児童票やリスクアセスメントシートのオンラインシステム開発を提案し、少しずつ現場での研究を進め、常に現場実践者と協働してきた。そして10年をかけて、行政と研究のData extraction→Data mapping→Data web-designへ移行してきたという。 なぜ、Toronto大学が行政のシステムを肩代わりし、また行政のシステムを大学のネットワークやデータベースで管理することにメリットがあるかというと、大学内のある程度セキュアデータベースが無料かつ最大限効率的に使え、行政としてもコストカットになる。そしてデータフォームができれば、現場で必要な情報の漏れやリスク見立て不足を機械的に防ぎ、データとしての欠損値も防げる。そして何より、現場と研究がリアルタイムに協働でき、研究としても後方視研究ではなく、前方視研究につなげられるからである。 私も、このようなシステムを作りたいと思っていたため、いくつものアイデアを頂いた気がする。ビッグデータサイエンティストは自律的なプログラムである程度コストはカットできるだろうし、リスクアセスメント項目も死亡事例が出た後ではなく、毎日の現場実践者達の努力がその日のうちに次の子どもや患者のために役立つ様にupdateできるようにしたい。そして、現場一人ひとりの苦悩と経験と勇気と知見を毎日介入と支援実践の経験値かつ臨床知として統合したいという動機付けをもらった。



●シンポジウム:NDACANを利用したUS各州の児童相談所(児童保護局)と市区町村支援の連携の分析について NDACANとはNational Data Archive on Child Abuse and Neglectという全米の虐待対応統計のことで、Cornell大学が管理しており、誰でも詳細な統計を見ることができる。日本でいう厚生労働省、警察庁、法務省などが持っている虐待対応のデータを一つに纏めたビッグデータベースとイメージして頂けると良いと思う。
http://t.co/xrEuJeplhH
まず、McGill大学のAndreas曰く、NCANDSでUSの児童相談所(CPS)統計を見るときは、①Differential Responsibility(各機関の役割と責任の違い)、②州毎の虐待対応の法体制、③土地が広いので地理的な視点(都市部-地方部)を交絡因子として知っておくことが必要であるという提言から始まった。
NCDACANでは、全児童保護局対応ケースの数は100万超えケースであり、多重ロジスティック回帰分析によって、精度の高いモデルがエビデンスと共に、非常に鮮やかに出ていた。州毎、年度毎のトレンドも提示され、前述の3つの交絡因子もClude & Adjustedオッズ比で比較されていた。
そして、これは州毎の子どもの数、SWの数、SWの一人あたり対応数、法制度、CPS数等の影響が分析によって調整された結果が示されていた。つまり、日本でも各児童相談所、各市区町村の機関における温度差や力の差と呼ばれていたり、ケースバイケースと言う耳触りの良い言葉できちんと議論されていないものが、クリアカットに可能な限り分けられる部分まで、客観的なデータと共に各機関の力量差が示されていた。ただし、この研究結果はまだ未公開であり、もちろん力量が低い機関の名前などは隠されている。 同じリスクでもある州、ある機関では解決まで、SW一人当たりのケース数や一時保護数、法体制なども全て調整された上で、どんなケースでも他の機関より2倍以上、対応の時間がかかっていたり、リスクアセスメントのデータの欠損が多いということが示されると、標準的な評価の重要さが感じられる。発表者は、研究はあくまで現場のニーズに合わせて行われるものであり、現場を非難するものではないと断った上で、ただしより良い子どもの支援につなげていくために、より良く改善していく指針には使ってもらえる、という結びをしていた。
上記研究は、現在論文投稿中とのことで公刊が待たれるが、日本ではケースバイケースと言われる現場の実状を、ビッグデータにより事細かに取られたデータによって、あまりに鮮やかな分析結果を見ると、USにおける行動分析学や予測モデルのアウトプットが進化していることに感銘を受けると共に、虐待対応に対する多職種連携にアセスメントと意思決定モデルは、警察のプロファイリングのようにデータに即して意思決定されることが伺えた。イメージとしては、USのテレビドラマであるクリミナルマインドにおけるBAU(Behavior Analysis Unit)のイメージである。
確かに、子どもの命を守る児童保護の観点からは、早期介入とより効果的なアセスメントポイントを作り出していくことは非常に重要なことであり、日本でも30年先と言わず、システムや法体制の変化が遅ければ、先に現場とテクノロジーと研究が協働することで、5年先、3年先にUSを追い越すレベルに持って行ければ、子どもの安全が促進され、現場でもなるべく非建設的な時間(特に会議への移動時間を無くすためにオンライン会議の整備、煩雑な文書入力をドキュメントスキャナで読み込み&OCR機能で自動処理レベルから、データベースシステムとして児童票に記入された内容を自動的にテキストマイニングでリスクや疫学のエビデンスをポップアップし見落としを防ぐようなレベルまで)をテクノロジーによって減らし、より現場で対応が必要な部分にこそ、最大限効率的にエネルギーを注いでもらえるような体制を作っていくことが必要不可欠であると感じた。

●まとめ
今回のISPCANヨーロッパ会議は、非常に有意義であり、特に私の興味関心から参加したシンポジウムや研究発表、現場での実践報告などは、現場が困っている困難事例や多機関連携、テクノロジーを利用したビッグデータの利用、それを現場で用いることで現場を楽にさせる活用方法についてであり、私自身現場に関わりつつ研究をする立場の科学者兼実践者として、多くの知見を得ることができた。一方で、システムでは、確かに日本は遅れを取っているかもしれないが、欧米であっても上手くいかない困難事例や多機関連携の失敗事例が沢山あると知り、日本の現場の人達もシステム以外では全く遅れを取っていないという発見諸処見られた。
欧米から何かを学ぶという視点は今後も必要だが、それだけでは足りない。
現場と協働しつつ、研究とテクノロジーの開発によって、日本から世界にアピールすること、また子どもを第一に考えた新しい現場実践や価値を作り出していけるよう、自分自身にとっても大きな動機付けになった。

次回ISPCANは2014年9月14日(日)~17日(水)、名古屋大会として日本で開催される予定である。日本の実践を世界と比較する一番近いチャンスである。世界は敵や手の届かない実務者集団ではなく、共に子どものために仕事をする仲間でありメンターである。今後、日本の現場は、東南アジアなど虐待対応発展途上国にとってモデルとなり、東洋の文化を備えたアジア圏でリーダーシップを発揮する立場にある。できていないことは背伸びをする必要はなく今後取り組めばよいが、一方現場で出来てきていること、努力してきたこと、きちんと結果として変わってきていることは日本として誇るチャンスであり、世界からも認められる機会でもある。同時に、子どもを最優先にした対応を発展させるために、私達は現場も研究も行政も世界と共に学び会えるLearning Processにする作戦を考えて行ければと思っている。
詳細はこちらhttp://www.ispcancongress2014.org/home.html