学会等報告第7回世界行動療法認知療法会議(7th World Congress of Behavioral and Cognitive Therapies)参加報告

更新日: 2013年8月20日

【はじめに】

WCBCTの第7回学術会議がペルーのリマにて7月22日から25日まで行われた。ペルーがスペイン語圏ということもあり、英語だけでなく、スペイン語でのセッションが数多く見られ、英語への同時通訳がついていた。今回のWCBCTではインターネットを用いた認知行動療法Internet-based Cognitive Behavior Therapy(:iCBTと以下略)や、コンピューターグラフィック(以下CGと略)やスマートフォンなどを利用したinformation and communication(s) technology(:ICTと以下略)を用いた認知行動療法の発表が多く見られた。本稿ではいくつかその内容について紹介したい。

【個人的なWCBCTのハイライト】

Ⅰ.ICTを用いた治療方法の発展
ICTを用いた治療技術が発展してきている。以下にポイントを4点まとめてみたい。

ⅰ)人前で話すことに極度に緊張するような社交不安障害(Social Anxiety Disorder:SADと以下略)に対する認知行動療法には、患者さん自身が気になる他者からの視点を客観的に観察するために、効果的なビデオフィードバックには、iPadを用いてすぐその場で撮影し、すぐにその映像を見るという方針が紹介されていた。このICTの利用は既に日本でもSAD治療において浸透してきている。

ⅱ)曝露療法へのバーチャルイメージの本格導入
特定の恐怖・不安に対する治療に、最新のCGによるバーチャルイメージを用いるという点も興味深かった。例えば高所恐怖には、3D映像によるバーチャルイメージにより高いところにいる体験を段階的にしてもらい、バーチャルイメージでの成功体験を得てから、現実場面での曝露反応妨害法に挑戦する。
 今までの脳内で行うイメージリハーサルと異なり、実際に体験型の美麗なバーチャルイメージを利用するという点が新しい。

ⅲ)特定の恐怖対象や強迫性障害に対する汚染恐怖には、スマートフォンのアプリとして若い世代やクリエイター達によく使われているセカイカメラのような拡張現実世界(AR:Augmented Reality)機能を用い、現実場面にバーチャルイメージを映し出し、恐怖対象を触る練習から現実曝露療法に移行できるなど、患者さんの曝露に対する回避を防ぎ、成功体験による動機付けを高めるスモールステップの選択肢を増やすことを活かしていた。

ⅳ)依存症患者に対するweb上での治療シナリオを用いたアイデアなども紹介されていた。若干まだCGっぽい荒さはあるものの、 web上で恐怖や不安、依存症患者向けに作られたシナリオ(3DのRPGゲームのような印象)をダウンロードし、治療戦術とするLabpsicom。(http://labpsicom.ulusofona.pt/index.php/en)実験心理学のエビデンスと実際の治療効果の研究も実証済みとのことで、とても興味深いサイトである。

これらは、最新のICTを用いた現実空間と仮想空間を用いた複合現実(Mixed Reality)を認知行動療法と融合させた形は、今後ICTで治療する階層と、Face to Faceで治療する階層など、症状の重症度や患者特性に合わせた治療体系の整理が進んでいくと考えられる。

Ⅱ.本格参入しだしたiCBTとメタアナリシス評価
 カロリンスカ大学Gerhard Anderssons先生と、ストックホルム大学のPer Carlbring先生の発表がスライドの明瞭さ、トークの面白さは非常に興味深かった。この二人が絡んだiCBTのメタアナリシスに関するシンポジウムでは、
・Depressionについては既にiCBTの効果は確認されている。
・iCBTはSADでも有効であることがわかってきた。
・他のDSM分類については全くiCBTが出ていないので、みんなで作っていこう。
・CBTの利用者のモチベーションの維持には、Emailでのリマインダー機能があったほうが、ドロップアウトが下がる。
・iCBTは援助要請が低く、支援に拒否的な若者にも、ドロップアウトを減らすのに役立つ。
・CBTはFace-to-faceの心理療法との比較においても、非劣勢または優勢な効果研究も見られている。
といった意見交換がなされていた。

事実、iCBTは、webベース&認知行動療法&スマートフォンやwebの利用から援助要請が低い人にも使いやすいというメリットから研究知見が集めやすく、メンタルヘルスにおけるビッグデータ活用の道となる。そのため、今後は更なる体系的なエビデンスを模索するため、
ⅰ)欠損値を含めたメタアナリシスへの展開
ⅱ)最も頑健な研究デザインである無作為化比較試験(RCT)において、統制群となるWaiting Listへの振り分けの際にもよりクオリティコントロールを慎重にすべき
ⅲ)メタアナリシス同士の比較をすべき
という提案がなされていた。

Ⅲ.ペルー児相の警察との連携について
報告者が発表した、虐待対応において認知行動療法に繋ぐまでの多機関連携による動機付け面接の仮説生成研究に対して、現地のペルー児相(ペルー国内での児童相談所機能を持った正確な機関呼称までは不明)の方が意見をくれた。

ペルーでも貧困と児童虐待、施設養育が遅れているため、1997年以降、地方部のストリートチルドレンの把握とHIV予防のために、男性間の性虐待について追跡調査を行っていると意見を聞いた。一方で、児童相談所としても子どもを保護の申し渡しをする際に、ラテン系の文化的要因もあるかもしれないが、児童相談所職員が攻撃・暴行されることも少なくないため、日本の立入調査以上に、保護時にはなるべく警察と常に動くようになり、現場から児相と警察の関係性が変わっていったとのコメントを頂いた。

この件については、ペルーをはじめ南米の児童虐待対応について、より先行研究や報告書を当たっていきたいと考えているが、警察と児相の連携強化に対する一つのアイデアを頂いた。

【今後クリエイティブな実践に向けてすぐに活用していくアイデアとして】

このようなセッションに参加すると、更なる臨床実践と研究に対する新しいアイデアがもらえる。実際ICTの技術は増えれば、援助要請の低さやドロップアウトへの対応として、少しずつ選択肢が増えるであろう。これは、日本における子育て支援や虐待予防の視点からも、すぐに応用できる可能性が考えられる。

一方でICTとメンタルヘルスには、ビッグデータの利用というメリットと、個人情報保護という議論すべき課題も残されている。ただし、新しい技術との接触には、多くの折衝があるだろうが、新しい行政や民間の支援方策として多くのアイデアにあふれている。

心理療法の観点に立ち戻ると、Face to Faceの治療効果において、Lambartらは治療者と患者の関係性が第一の因子という報告があるが、iCBTでの治療因子は、アプリやwebのレイアウトやデザイン、利用者からみた使いやすさ(アクセシビリティ&ユーザビリティなど)に置き換わる可能性もあるだろう。

また、iCBTのスマートフォンアプリに、PCの壁紙変更のようなデザインカスタマイズ機能があると利用者のモチベーションを高め、より望ましい行動を維持させるかもしれない。例えば「レベル1をクリアしたら壁紙変えられるオプションが追加されます。レベル2をクリアすると壁紙の種類が追加されます」といったクエスト機能(強化子としての役割)があると低強度セラピーとゲーミフィケーションを組み合わせていくことも一つの可能性になるだろう。

心理療法は、治療者や治療環境というハード面と、心理療法の技法やアクセスしやすさといったソフト面についても議論が分化していく可能性を秘めており、iCBTの発展を通して、ツールのオープン化とコンテンツの増殖という視点によって、これからの時代の価値が新しく作られていくと考えられる。

子育て支援、社会的養護、児童虐待対応なども、今後このような新しいICTを積極的に導入することと、その評価を科学的に検証していくことが、限られているマンパワーや資源を最大限有効活用していくための一つの可能性を示すものと考えられる。

次回は3年後の2016年に開催予定。