解説レポート保育と発達障害-今、保育者に求められていること-

更新日: 2014年3月12日

私たちは、日本子ども家庭総合研究所平成24年度チーム研究「乳幼児の発達・行動評定および子育て支援」において、発達障害、被虐待児の早期発見・支援の現状と課題を報告しました。(日本子ども家庭総合研究所紀要第49集)この研究報告に基づいて、発達障害に関わる可能性のある全ての保育者に対して、今求められていることについて考察してみたいと思います。

近年、発達障害への我が国の取り組みには、2004年の厚生労働省による発達障害者支援法の成立、2007年の文部科学省による特別支援教育の発足、2011年にはじめられた環境省によるエコチル調査と目覚ましい展開を見せています。しかしながら、発達障害児(者)への支援の現状を見るとまだまだ不十分と言わざるを得ません。例えば受診率90%を誇るわが国の乳幼児健診においては、未だ発達障害の発見、支援の場となり得ていないのが現状です。また特別支援教育においては、一昨年12月文部科学省は「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する」調査・報告を前回の調査から10年ぶりに行っています。その中で、前回と同じく6.5%にのぼる児童生徒が支援を必要としていることを教師が認知していますが、そのほぼ40%が何ら教育的支援を受けておらず、また支援を受けている児童生徒の中で、支援のための個別の教育支援・指導計画書が作成されているのは10%にも満たないという現状があります。

こうした中で、乳幼児の保育担当者が担う、役割の重要性が指摘されています。報告書では「子どもの発達問題が集団生活の中で顕在化され、そこにおいて初めて支援がスタートされるという傾向が推察される。」としています。健診以前に多くの保育担当者は子どもの発達上の問題を気にかけており、実は保育の場から支援がスタートしているのです。

今回の報告では、早期発見、支援の課題として発達障害の更なる啓発を挙げています。求められているのは新たな障害児観であり、「そのキーワードはスペクトラムである。すなわち障害と健常の連続線上に発達特性が位置づけられ、自閉症をはじめとして障害はスペクトラム、程度問題であり、健常と障害の明確な境界はなくなったのである。すなわち健常-障害、正常-異常、普通-特殊、etc.というような、二元対立的観点の克服が求められていると考えられる。・・・すなわち『療育』と『子育て支援』の一元性のもとに、すべての子どもの個性が実現されるように、地域の子育て支援体制の再編が、要請されているのである。」としています。保育の現場においても最近は、頻繁に発達障害の診断名があがってきます。しかし名前がつくこと、ラベルが貼られることで子どもの本質を見失うことが危惧されます。大切なことは、その子どもの発達の凸凹を丁寧に見極め、診断名に納まらない唯一無二の個性を見出し、障害の有無を超えて一人ひとりの個性の実現をはかる保育にあると思います。

もう一つ提言していることは、その発達の凸凹を持った子どもを育てている母親への支援です。子どもの発達特性を捉えると同時に、その子育てにおける「育てにくさ」と言う母親の「育児困難感」を受け止めてゆくことです。家庭と保育所・幼稚園等、子どもの二大生活圏の一方を担う保育者は、保育における「指示の通りにくさ、関わりづらさ」という「保育困難感」を通じて母親の思いにもっとも共感できる立場にいます。

今、保育者に求められていることは、実は保育者こそ診断前からの発達支援の第一人者であり、そして子どものみならず母親の育児に寄り添える、子育て支援の主役にほかならないという自覚であると思います。

※『保育界』第475号(2014.3)からの転載