解説レポート病児を支援するHospital Play Specialistの役割について

更新日: 2011年2月1日

ホスピタル・プレイ・スペシャリスト(以下、HPS)は、遊びを使って病気の子どもたちや障害のある子どもたちを支援する専門職です。1960年代前半より英国においてその職種の骨格が徐々に形成され、現在では約7,000人のHPSが英国全土の小児医療サービスの中で活躍しています

治療を受けるという経験は、全ての子どもたちにとって怖い経験になり得るものです。英国保健省が指摘する通り、幼い頃の体験はその後の判断基準となって長く心に残るため、私たちは子どもと医療との関わりに注意を向けなければなりません。実際、子どもの頃に医療との関わりのあった方々に聞き取りを行ったところ、幼い頃に入院した経験がその後20年以上たった今でも納得できず、医療が大嫌いだから自分自身は短命であろうと予想する青年や、小学生の頃に受けた手術の経験があまりにも怖かったため、子どもにはそんな思いをさせまいと我が子の手術を長期間拒み続けた父親などの事例を知ることができました。

残念なことに、日本では子どもにやさしさを感じさせる医療を提供しようという試みが、まだ十分ではないように思います。HPSはまさに、子どもにやさしい医療を提供する具体的な方法論(遊び)を持って、子どもたちをサポートする専門職です。

1.日常の遊び、治癒的な遊び

子どもにやさしい医療はまず、子どもにフレンドリーな環境を整備し、提供することから始まります。外来の待合室や処置室、救急など、初めに子どもが関わる医療環境の雰囲気はとても大切です。HPSはプレイルームをしっかりと整備し、そこでは非指示的で自由な遊びが展開できるように、そして子どもたちが多くの選択肢を与えられるように考え、遊びの支援を行っています。

図1.HPSがいるプレイルームの風景
図1.HPSがいるプレイルームの風景

想像してみて下さい。治療を受けるということは、子どもたちから多くの選択肢を奪うことにつながります。学校に通えなくなった、好きなサッカーが出来なくなった、きょうだいと遊べなくなったなど、子どもたちの世界は極端に制限されます。医学的な治療そのものに選択肢はほとんどありません。選択肢を奪われた状態は、子どもの情緒に影響を及ぼします。自分の体であるのに、まるで自分ではないような、自分の生活(人生)なのに、まるで自分の生活(人生)ではないような経験は、子どもの中に怒りや諦めを生む可能性があります。こうした選択肢が極端に制限された環境の中で唯一、選択肢を与えられる行為が遊びです。したがって、病院における遊びは、子ども自身が選べる遊びであり、かつ結果を求めない遊びであることがとても重要になります。

HPSは、全ての子どもがたとえ入院していようとも、遊びとアクセスできるように病院環境を整えることから始めます。遊びには元々治癒的な効果があり、子どもは遊びを使いながら、つらい処置や治療にも向き合う力を得たり、また自分の感情を表現し、情緒を安定させることができるのです。

2.プレイ・プレパレーションとデストラックション

遊びは子どもの発達にとって欠かせないものでもありますし、先に述べたように遊びには元々治癒的な意味合いが含まれています。そのため、教育学や心理学の専門家は遊ばない子どもがいると心配になるのですが、医療においてはこの遊びの価値が軽視される傾向にあります。また、遊びを通して子どもにやさしい環境が形成されても、実際の治療の中に遊びの持つ力が多く取り込まれていなければ、十分に遊びの力を活用しているとはいえません。

HPSは、プレイ・プレパレーションとデストラックションを行います。プレイ・プレパレーションは、子どもが受ける治療や処置に対する情緒的な準備を行うことに目的があります。インフォームド・コンセントとは意味合いが違うものです。豊かな感性と関心を持つ子どもたちにとって、知りたいことに応えることは大切です。医療者側が教えたいことを、子どもたちに教えることが目的ではありません。日本において先行した、看護技術としてのプレパレーションは、英国のHPSが行うプレイ・プレパレーションとは少し異なるものかも知れません。

私がプレイ・プレパレーションを行った女児(12歳)の事例を紹介しましょう。女児は整形手術を受けるため、3泊4日の入院をすることになりました。プレパレーションブックを用い、今から受ける手術について遊びの要素を取り入れながら準備したのですが、彼女はとてもクールに振舞っていました。何に対しても「全然、平気」と答えます。

しかし一転、手術前には服を着替えなければならないこと、そしてアクセサリーを外さなければならないことを伝えると、彼女の様子が変わってきました。そわそわし始めたのです。「何か知りたいことはある」と尋ねたところ、小さな声で「帰るときは自分の服で帰れるよね」と聞いて来ました。「もちろん」と答えると、「じゃあさあ、ピアスは?ピアスはいつから付けられるの」と聞いてきたのです。こうした反応は、12歳という、仲間からのプレッシャーがとても強い発達年齢の子どもの気持ちを、良く表している事例だと思います。

デストラックションもHPSが用いる技術であり、採血や点滴などの場面で有効です。採血などの処置の際に、日本では親の立会いを認めない病院がまだ多くあります。一方、欧米諸国では親の同室が常識となっています。HPSは、採血の時どのように過ごすかを、子どもと前以って打ち合わせをします。針が刺さるところを見る子ども、あるいは本を読んだり、歌を歌ったり、さらにはゲームをしたり、シャボン玉を吹いたり、リラクゼーションの技術を使ったりと、子どもの処置に対して様々な方法で無意味な恐怖を軽減するのです。

またデストラックションは、痛みを軽減する技術でもあります。楽しくて綺麗なシャボン玉は特に好まれており、嫌なことから気持ちを逸らせるだけではなく、息を大きく吸込み吐くという行為が、筋肉の強張りを解すという効果をもたらします。

ここで、デストラックションの事例を1つ紹介しましょう。救急治療でやって来た女児(10歳)でした。足を怪我しており、5針ほど縫う必要があったのです。小児科医は皆、手が空いておらず、成人の医師がやって来て縫い始めた様子です。麻酔は効いていますが、女児はお母さんの手を握るために体を横に向けてしまい、医師は縫いにくそうでした。そこで、「何かデストラックションは必要かな?」と女児に提案しました。子どもは「うん。早く、お願い」と答えたため、本を彼女と医師の間に立て、本の中から一緒にドラゴンを探すゲームを始めました。女児は、意識して本に関心を向けていることが分かりました。不快から快へと自分で気持ちをコントロールしており、HPSはその状態を側面的に助ける構図です。女児は抑制も受けず、本を楽しみながら処置を終えることが出来たのです。処置を終えた女児は「助けてくれてありがとう」と私に言いました。すると処置を行った医師も「こちらも助かった、ありがとう」と言ってくれたのです。HPSとして「もし遊びを使えば、これまでより円滑に、そして安全に治療行為が実現されるはずである。しかし、日本はまだ、難しい方法が取られている現状にある」ことを、改めて考えさせられた事例でした。

3.処置後、術後の遊び

HPSにとって、処置や手術後の遊びもまた、重要な支援です。子どもは、これまで経験してきた治療や処置について、遊びを通して我々に表現してくれます。HPSは、その子どもにとって、医療との関わり経験が肯定的なものであったかどうかを確認し、誤解がある場合にはこれを訂正するための関わりを考えます。つまり、処置や手術後の遊びを通して子どもたちは医療との関わり経験を最終的に肯定化し、一区切りつけてから再び社会に戻って行くのです。

手術後の遊びの事例を1つ紹介しましょう。男児(7歳)は手術後、大変機嫌が悪い様子でした。その理由を探るため、医療器具などを使ったメディカル・プレイ(ごっこ遊び)を展開しました。男児が医者の役割を演じた際、患者の役割をしているクマに対し、「臓器は1つだけ取る予定だったけど、2つとも取っちゃったからね」と話しかけました。これに対し私が「どうして2つとも取ったと思うの」と質問したところ、「だって僕の体重がすごく減っているし、看護師さんが『2つとも取っちゃったかもね』と言ったもの」と答えるのです。そこで私は、担当医へ会いに行くというツアーを組みました。担当医は、男児の質問に対して丁寧に答えてくれ、自分の子どもの写真まで男児に見せていました。退院する日、男児は「お医者さんがモンスターじゃないってことが分かってよかったよ。かわいい子どもがいるものね。医者は怖くないよって友達にも伝えるよ」と言って病院を後にしました。

4.個別支援ときょうだい支援

最後に説明する、個別支援やきょうだい支援もHPSの大切な仕事です。3日以上の入院を必要とする場合、HPSの多くは個別のプレイ・プログラムを作成し、入院による発達の遅れが出ないよう配慮するとともに、医療的ケアの一環として遊びが取り入れられるよう、子ども一人ひとりに日々の遊び計画を立てます。また、時には医師などから「どこも悪いところが見当たらないのだけど」と、プレイルームにおける観察をお願いされる場合があります。そのような時HPSは、十分な時間を使い、遊びを通してその子どもを観察し、観察した結果を医師に伝えるのです。

日本のHPSは現在、人工呼吸器を付け、在宅にて療養する子ども達に対し、遊びを用いた個別支援を始めています。そこでは、発達に欠かせない遊びを提供し、人工呼吸器を装着した状態でも好きなだけ遊べることを具体的に家族へ伝えています。

きょうだいは、親よりも長く付き合っていく可能性がある存在です。入院中の自分のきょうだいに何が起きているかを把握することは、退院後のきょうだい間の関わりに大きな影響を及ぼします。治療に参加するチームの一員として、きょうだいを含んで考える必要があると考えます。

図2. 病児のきょうだいが描いた自画像
図2. 病児のきょうだいが描いた自画像

図3. 在宅にて遊びの支援を受ける子どもの様子
図3. 在宅にて遊びの支援を受ける子どもの様子

おわりに

以上、HPSの役割をまとめて説明しました。子どもの命を輝かせる源である遊びを用い、小児医療チームの一員として活動する専門職がHPSです。日本ではしばしば誤解があるようですが、HPSは決して「プレパレーションをする人」ではありません。子どもが感じる小児医療の満足度を高めるため、遊びを用いて小児医療を子どもに親しみやすいものにするため、日常の遊びから個別支援やきょうだい支援まで幅広く遊びのサービスを提供し、子どもが医療を身近なものとして捉える力をつけてもらうのです。

遊びは子どもの権利の1つです。その意味では、HPSは病児や障害児の権利を擁護する者であると捉えることができます。病児であっても障害児であっても、社会の一員として子ども一人ひとりが自己表現できるように、HPSは遊びを用いてソーシャルインクルージョン(社会的内包)を行う援助者であるといえるでしょう。

※注:「Getting the right start: National Service Frame work for Children (p.14)」において「Play and Recreation」という項目が設けられ、遊びやレクリエーションは病院が提供しなければならないサービスとして、明確に位置付けられた。以後、英国保健省は「National Service Framework for Children Young People and Maternity Services」というテーマの下、子どもの年齢、障害、疾病別にサービスのあり方について詳細な枠組みを発表している。

参考文献

  1. Gorman, P. 1998 Managing Multidisciplinary Teams in the NHS. Kogan Page.
  2. Harvey, S. & Ann Hales-Tooke, M.A. 1972 Play in Hospital Faber and Faber.
  3. ホイジンガ, J. 高橋英雄訳 1971 ホモ・ルーデンス 人類文化と遊戯 中央公論社.
  4. Lansdown, R. 1996 Children in Hospital: A Guide for Family and Carers.Oxford University Press Inc., NY.