解説レポート平成14年度からの母子健康手帳の改正について

更新日: 2002年2月1日

1.今回の母子健康手帳改正の経緯

2.今回の改正点とその趣旨の要点

1)母子健康手帳の大きさの自由化
  2)離乳と断乳についての記載変更
  3)乳幼児の発達や生活に関する質問項目の一部改訂
  4)乳幼児身体発育曲線の改訂
  5)父親の育児参加の促進等についての配慮
  6) 子育て支援、児童虐待予防についての配慮
  7)予防接種の接種勧奨
  8)揺さぶられっ子症候群の予防に関する記載を追加
  9)歯科保健の記載の追加
  10)幼児期における生活リズムの形成、食生活上の注意についての追加
  11)葉酸の摂取について
  12)妊娠中の薬の影響や育児期間中を含めた喫煙・飲酒についての注意
  13)親子のふれあい、スキンシップのすすめ
  14)もやもや病の気付きについて
  15)事故予防の記載の充実
  16)働く女性・男性のための出産、育児に関する制度の解説充実

おわりに

母子健康手帳改正に関する検討会名簿

平成14年度からの母子健康手帳の改正について
[母子健康手帳のサンプル例]

1.今回の母子健康手帳改正の経緯

 母子健康手帳の前身は、母子の死亡率の低減のために妊産婦の健康診断と周産期の保健教育を目的として昭和17年に創設された妊産婦手帳である。戦後の昭和22年、児童福祉法の制定とともに出生児の記録を含めた母子手帳、さらにその後母子健康手帳として内容が充実された。とくに平成4年以降は現在の形式となって、前半の省令様式の部分(妊産婦や保護者自身と医療・保健の担当者が記入する妊産婦や新生児・乳幼児の記録に関する欄。省令によって定められ、官報に掲載される全国一律の部分)と後半の情報の部分(妊産婦の健康管理や新生児・乳幼児の養育に必要な情報、予防接種や母子保健サービスに関する情報、母子健康手帳を使用するに当たっての留意事項などを掲載している部分)とで構成されるようになった。
 このうち、後半の情報部分は、母子健康手帳の作成・配布の主体である市町村が、それぞれの地域の実情に合わせて独自に作成してよい(任意記載)ことになっているが、現実には市町村が独自に作成するのが困難であるため、国が専門家の意見による見本を示しており、全国的にほぼそのまま用いて手帳が作成されている。
 母子健康手帳の省令様式のページの中に、厚生労働省が10年ごとに行う乳幼児身体発育調査に基づく発育曲線が示されているが(38頁〜45頁)、平成12年(2000年)に行われた調査に基づく発育曲線が作成されたので、母子健康手帳に示されたグラフも改訂することになった。そしてこの機会に他の部分についても必要な改正が行われた。
 この改正に当たっては、厚生労働省雇用均等・児童家庭局に母子保健の現場に関わる職種の代表的関係者からなる検討会が持たれ、集中的な議論の上で改正案が作成され、省として決定されたものである。

2.今回の改正点とその趣旨の要点

 今回の主な改正点及び改正の趣旨は以下の通りである。

1)母子健康手帳の大きさの自由化

 これまでA6版の大きさと定められていたが、この定めがなくなった。手帳を給付する市町村の判断に任せるという趣旨で、規制緩和の一環ともいえる。前回の改定時に手帳の大きさについて母子保健関係者のアンケートをとったことがあったが、ポケットやハンドバッグに入れやすいという理由で現行のA6を希望する意見が多かった。今回大きさが自由化されても、A6を用いる市町村が多いと予想される。このことから、1頁に入れる文字量をなるべく増やさない方向で調整した。

2)離乳と断乳についての記載変更

 平成7年12月に厚生省は離乳の基本を改正している。それまでは「離乳の完了時期」を12か月頃としていたが、これより遅れるケースもあり、親があせりや不安を感じることがあるので、この時の改正では余裕を持たせ、完了時期を通常12〜15か月頃、遅くとも18か月頃とした経緯がある。この方針を踏まえて、これまで1歳健康審査の頁で離乳の完了の有無を記載していたのを、「離乳の進行状況(一日の食事とおやつの回数)」を記載することに改め、1歳6か月の頁で完了したかどうかをチェックすることにした。
 また、できるだけ母乳栄養を勧めており、母乳をやめる時期を1歳までとする必要もないことから、「断乳」の表現を止め、1歳と1歳6か月の頁で「母乳を飲んでいるか、いないか」を訊ねて記載するだけにした。

3)乳幼児の発達や生活に関する質問項目の一部改訂

 専門家の意見や平成12年に行われた「幼児健康度調査」の結果を踏まえ、保護者の記録の頁の質問項目の一部を修正・追加した。

<表現を修正した例>

旧表現 新(修正)
3〜4か月頃 見えない方向から声をかけてみると、そちらの方へ顔を向けますか 
見えない方向から声をかけてみるとそちらの方を見ようとしますか 
9〜10か月頃 指で、小さい物をつかみますか 指で、小さい物をつまみますか

<保護者の記録の頁における発達や生活習慣のチェック項目の追加または削除>

追加または削除した項目
9〜10か月頃 「後追いをしますか」を追加
1歳6か月の頃 「食事やおやつの時間はだいたい決まっていますか」を追加
「保護者が歯の仕上げみがきをしてあげていますか」の質問を、6歳までの各年齢の頁に追加
2歳の頃 「クレヨンなどでなぐり書きをしますか」を削除して、「積木で塔のようなものを作ったり、横に並べて電車などにみたてて遊ぶことをしますか」を追加
3歳の頃 「どんな遊びが好きですか」をスペースの関係で3歳以降は削除し、3歳では「ままごと、怪獣ごっこなど、ごっこ遊びができますか」を追加
「いつも指しゃぶりをしていますか」の質問を、3歳、4歳、5歳頃の頁に追加。任意記載の部分の育児のしおりに解説を入れた
4歳の頃 「お手本を見て十字が描けますか」を追加
「衣服の着脱ができますか」を追加(6歳の頃の質問を移動)
「食べ物の好き嫌いはありますか(嫌いなものの例)」を追加
5歳の頃 「お話を読んであげるとその内容が分かるようになりましたか」と、「家族と一緒に食事を食べていますか」を追加
「食事やおやつの時間はきまっていますか」を削除(1歳6か月に移した)
6歳の頃 「おもちゃやお菓子などをほしくても我慢できるようになりましたか」と、「朝食を毎日食べますか」を追加
「大人の手を借りずにひとりで衣服の着脱ができますか」を削除(4歳の頃に移した)

4)乳幼児身体発育曲線の改訂

 平成12年の乳幼児身体発育調査の結果に合わせて発育曲線などのグラフを改正したが、体重と身長のグラフは10及び90パーセンタイル曲線を削除して、3と97パーセンタイル曲線だけにした。
 保護者が子どもの体重身長について余計な心配をすることを避けるために、表現を単純にしたもので、10年前の改訂の時から懸案になっていたことである。平成2年の調査に基づくこれまでの発育曲線とほとんど変わりはない。また首すわりやひとり歩き等の発達についても、これまでとの差はない。

5)父親の育児参加の促進等についての配慮

 育児休業制度と父親の育児参加を促進するため、妊婦の職業と環境の頁に父親・母親両方の育児休業取得を記録する欄を設け、任意記載頁の部分の各所にも妊娠中の夫の協力や父親の育児参加に関する記述を追加した。

6)子育て支援、児童虐待予防についての配慮

「子育てについて困難を感じることはありますか」という質問を保護者の記録の頁の、1か月頃、3〜4か月頃、9〜10か月頃、1歳6か月頃、3歳の頃の各頁に追加した。新生児ないし乳児の初期では、周産期の妊産婦の気持ちの落ち込み(マタニティーブルーないし産後うつ状態)に気付くため、それ以後では、育児に困難感をもつ保護者の中に児童虐待につながるおそれのある者もあるので、乳幼児健診の機会にあわせて設定した。この項目は記入する保護者自身のことを訊ねているので、「はい」「いいえ」の他に「何ともいえない」という答えを用意してある。なお、「困難を感じる」という表現が分かりにくいのではないかとの議論もあったが、「育児について困ること」、という表現では表せないニュアンスの違いがあるので、あえてこの文言を採用した。
 このような児童虐待にリスクの感じられる保護者に気付いた時は、虐待に至らないよう早期に支援をして下さるよう、母子保健関係者にお願い申し上げる。
 任意記載頁でも「子育てに関する相談機関」の欄の全面改正などを行った。

7)予防接種の接種勧奨

 予防接種実施率の向上のために、1歳6か月、3歳、6歳という主要な幼児健診の頁に接種を受けたかどうかのチェック欄を設けた。未接種の者には接種を勧めて頂きたい。

8)揺さぶられっ子症候群の予防に関する記載を追加

 首の筋肉の未発達な時期、とくに首座り前の乳児を強く揺さぶると脳出血を起こす怖れのあることが指摘されているので、児童虐待に限らず一般的な注意として記載した。

9)歯科保健の記載の追加

 前述のように保護者の記録の頁に仕上げみがきや指しゃぶりについての質問を追加した他、後半のすこやかな妊婦と出産のためにの欄と育児のしおりの中の歯科保健の解説を充実した。指しゃぶりについては、気持ちが落ち着く働きがあるが、過度な場合は歯列不正やあごの発達に障害をきたすことがある旨の記載をした。

10)幼児期における生活リズムの形成、食生活上の注意についての追加

 睡眠・食事などの生活リズムの形成を重視するために、前述のように保護者の記録の頁への追加の他、後半の育児のしおりにも解説を追加し充実した。

11)葉酸の摂取について

 二分脊椎などの神経管閉鎖障害の発生を減らすのに有効との「先天異常の発症リスク低減に関する検討会」(平成12年12月)の報告を踏まえ、日頃からの葉酸摂取やバランスのよい食事のすすめを後半の解説に追加した。葉酸摂取は妊娠前から必要とされるが、当時厚生省から通知が出された経緯を踏まえ、日頃からの栄養上の注意という形で記載した。妊婦や保護者から質問があった場合は、検討会の報告の内容と主旨に従って説明して頂きたい。

12)妊娠中の薬の影響や育児期間中を含めた喫煙・飲酒についての注意

 妊娠中の薬の影響については医師や薬剤師の説明を受けるよう記載してあったが、分娩時の薬剤使用についても同様に事前に十分な説明を受けるようにとの記載を追加した。また、胎児の発育不遅延やSIDSの予防のため周囲の人も含めた禁煙と、妊娠したら飲酒は控えるようにとの記載を充実した。

13)親子のふれあい、スキンシップのすすめ

 育児のしおりを中心に、親子のふれあいの機会を増やすよう、また抱っこなどスキンシップによる安心感など、心の面での解説を充実した。

14)もやもや病の気付きについて

 育児のしおりの4歳頃の記載に、「笛を吹くなど深く呼吸しているときに一瞬気を失うような症状がみられたら医療機関にかかりましょう」という表現でもやもや病の気付きについてふれた。

15)事故予防の記載の充実

 自動車に乗せる時のチャイルドシートの着用、日本中毒情報センターによる中毒110番等の紹介を追加した。

16)働く女性・男性のための出産、育児に関する制度の解説充実

 女性労働者が「母性健康管理指導事項連絡カード」を利用しやすいよう、また事業主が母性健康管理上必要な措置をより適切に講ずることができるよう、同カード様式を追加記載した。この頁を拡大コピーすればそのまま提出用のカードとして使用できる。
 また、都道府県労働局の設置に伴う改組に合わせて問い合わせ窓口の記載改正、雇用保険法の改正による育児休業給付の給付率が、休業前賃金の40%に引き上げられたこと、いわゆる育児・介護休業法の改正により、育児を行う労働者のための時間外労働の制限、勤務時間の短縮等の措置の対象となる子の年齢の引き上げ等の規定が施行されることに伴う記載の改正が行われた。

おわりに

 以上、今回の母子健康手帳改正の要点を解説した。
この改正に当たり、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知では、近年における児童虐待事例の増加などに鑑み、各市町村の実情に応じた育児相談窓口の連絡先等育児支援情報を盛り込むよう指示された(平成14年1月15日雇児発第0115001号)。
 なお、保護者の記録の頁に設けた質問項目の意味等詳細な解説および乳幼児発育値の解説は、従来からの事項を含め、幼児健康度調査の解析を担当した日本小児保健協会から近く小冊子が発行される予定なので、それを参照していただきたい。

母子健康手帳改正に関する検討会名簿(敬称略、五十音順)

氏名 所属
朝倉啓文 日本医科大学産科婦人科助教授
新井誠四郎 日本歯科医師会常務理事
大林一彦 医療法人七美会大林小国小児科理事長
奥山千鶴子 NPO法人びーのびーの代表
小野紀子 愛育病院NICU婦長(助産婦)
加藤則子 国立公衆衛生院母子保健学部乳幼児保健室長
川井尚 日本子ども家庭総合研究所愛育相談所長
小林美智子 大阪府立母子保健総合医療センター成長発達科部長
渋谷いづみ 愛知県知多保健所長
髙石昌弘 国立公衆衛生院顧問
長井聡里 松下電工本社健康管理室室長
日暮眞 東京家政大学教授
平山宗宏 日本子ども家庭総合研究所所長
水野清子 日本子ども家庭総合研究所栄養担当部長
雪下國雄 日本医師会常任理事
吉岡京子 足立区東和保健総合センター(保健部)

(母子保健情報第44号 特集:小児外科の進歩 2002年2月刊行より転載)