• ホーム
  • 資料紹介文献抄録
  • 保育園における“気になる子ども(特別なニーズを有する子ども)”への特別支援保育-広汎性発達障害が疑われる男児の事例研究
 

文献抄録保育園における“気になる子ども(特別なニーズを有する子ども)”への特別支援保育-広汎性発達障害が疑われる男児の事例研究

更新日: 2011年5月1日

著者 藤井千愛・小林真・張間誠紗(砺波市立北部幼稚園、富山大学、輪島市立松風台保育園)
掲載誌 富山大学人間発達科学研究実践総合センター教育実践研究、第5巻、131~139頁、2011

保育や幼児教育の現場では、近年、発達障害と診断される子どもや、発達障害と共通した特徴が認められる子どもが増加しており、彼らへの適切な支援や保育のあり方が、研究領域でも、実践現場でも模索され続けている。しかし、発達障害やその疑いのある子どもたちに対する保育の方法論は、いまだ充分に確立されているとはいえず、日々彼らと関わる保育者の負担や悩みは軽減されていない。紹介する研究論文では、5歳男児の事例に基づき、特別な配慮が必要と考えられる子どもへの具体的な支援方法が紹介されており、現場の保育者にとって貴重な資料となると考えられる。

この研究では、保育現場で“気になる”と言われている子どもを「発達障害と共通した特徴が認められるが、はっきりとした診断がついておらず、保育者がその子どもに対してどのように関わってよいか戸惑う子ども」と定義している。そのうえで、そうした子どもの一人であるA男(支援開始時5歳6か月)に焦点をあて、事前観察(6月下旬~7月下旬にかけて5回)、保育に参加しながらの支援(7月下旬~11月下旬にかけて11回)、事後観察(12月上旬に2回)を行なっている。

事前観察では、体操教室に加わることができずに立ち歩き、「遊ぶのは違う」などと保育者に注意されたり、年下の子どもが間違った場所におもちゃを片付けようとしているのを見て「違う!」と激しく突き飛ばす、といったA男の事例が紹介された。こうした事前観察とその後のカンファレンスに基づき、A男には「見通しが持てない状況で不安になる」「動作や口調などの対人行動がじょうずではない」といった、高機能広汎性発達障害児に似た特徴が認められることが示され、以下の4つの支援方針が固められた。
①様々な活動に自発的に取り組めるように促す(本人のよいところを称賛する)、
②次の活動にスムーズに移行できるように促す(事前に内容を説明して活動についての見通しを持たせる)、
③指示の聞き漏らしがないように個別に配慮する(個別に声掛けをおこなう)、
④他児(特に年下の子ども)との関わり方を教える(ストーリーブックの導入)。

以上の方針に基づき、参与観察と支援が行なわれた。方針①に基づき、A男が鼓笛隊の練習への参加を渋った場合でも、保育者は注意せずに待ち、友だちを応援するなどの部分的な参加を賞賛するようになった。方針②に基づき、A男が泥団子づくりの日課への参加を渋った場合でも、保育者は「今から泥団子作るから来てね。これ終わったら来る?待ってるよ」と声をかけ、A男に先の見通しを持たせ、時間を与えた。そのことによりA男は、自分のタイミングで泥団子づくりに加わることができた。方針③に基づき、A男が行動の切り替えができずに集団行動から外れてしまった場合でも、保育者は、A男の注意を集団行動へと促したり、自身がモデルとなって次の行動を促すことができた。
保育者によるこうした働きかけの変化に伴い、A男自身の行動にも以下のような変化がみられた。方針①に関連して、活動への参加の幅が広がり、言葉で自分の思いを伝えられるようになった。方針②に関連して、自分のなかで気持ちに整理をつけて次の活動に移れるようになった。方針④に関連して、一人遊びが少なくなり、自分から友だちを誘って集団遊びができるようになった(ただし自分勝手にルールを変える)。また、他児の遊びに興味を持つようになった。

この研究では、上述の事例や先行研究の検討に基づき、“気になる子ども”を保育する際の以下のような留意点が示されている。①賞賛する・認めること。保育現場での“気になる子ども”の多くは、保育者から叱責されることがあっても、賞賛されることがほとんどない。保育者が子どもを肯定的に認めることにより、子どもは安心感や自信を持つことができる。②集団活動への支援。集団活動への参加を拒む子どもに対して、参加を強要せずに子どもの気持ちを受容し、参加の枠組みをできるだけ広げることが、結果として、子どもの自発的な参加を引き出すことにつながる。③他児との関わり(遊び)への支援。子ども同士のイメージの共有を保育士が積極的に支援することにより、“気になる子ども”が他児と遊びを共有できる可能性が広がる。

ここまでみてきたように、子どもへの支援においては、保育者が子どもの見方や働きかけ方を意識的に変えることにより、当の子どものありようも間接的に変化する、といえる。この研究で挙げられた留意点は、発達障害やその疑いのある子どもたちに加えて、虐待を受けた子どもたちなど、広い意味での“気になる子ども”たちと保育者が関わる際の、具体的な指針となりうると考えられる。