文献抄録集団保育の役割について中国の保育者の考え方-日本の保育者との比較から-

更新日: 2010年3月1日

著者 劉海紅・倉持清美(東京学芸大学大学院教育学研究科博士後期課程、東京学芸大学教育学部)
掲載誌 日本家政学会誌 60(12):p.987-996, 2009

 本論文の問題意識は、日中ともに子どもを取り巻く環境が変化し、集団保育の重要性が増してきているという点にある。その背景は日本の少子化、中国の一人っ子政策であり、子どもの数の減少によって人間関係の希薄化の恐れなど、同様の問題をかかえている。親を対象とした先行研究では、様々な相違が明らかにされていることがまず紹介されている。一方、保育者の意識についての比較研究は少ないが、中国の保育者の意識は親の期待と異なる傾向が報告され、中国の集団保育の改革期であると考察されている。その背景には、「幼稚園工作規定」(1989年、1996年改訂)などの規定により新しい教育観が提唱されていることがある。そこで、中国の保育者の保育観を明らかにする事を目的に、調査が実施された。

 調査の対象は日中の公立幼稚園の保護者で、質問紙調査および補足としてインタビュー調査も実施された。日本110部、中国99部の質問紙が回収された。なお、中国の幼稚園は一般に両親が働いているため、保育時間が長く日本の保育所に似ているが、日本の文科省にあたる中華人民共和国教育部が管轄しており、幼児教育の実施場所と位置づけられている。そのため、日本においては幼稚園を調査対象としている。

 調査項目は、幼稚園の役割と保育者の子ども観で、結果は以下の通りである。

 「保育者が幼稚園で育みたいもの」で、日本の保育者が中国の保育者に比べて有意に選択率の高かった項目は「人と関わる力」「いろいろな遊びを経験させること」であった。逆に中国の保育者が高かった項目は「知力」「友達を作ること」「基本的生活習慣」であった。

 「親が入園させる理由」では、日本の有意に高かった項目は「人と関わる力が身に付く」「友達ができる」「いろいろな遊びが経験できる」で、中国は「知力」「資本的生活習慣」「家で世話をしてくれる人がいない」が高かった。インタビューからも、保育者は知力を養うことに対する親からの圧力を感じていることが表わされていた。

 「どんな子に育って欲しいか」という保育者の子ども観を聞いた項目では、日本は「心の優しい思いやりのある子」、中国は「健康な・丈夫な子」の割合が高かった。しかし、日本では優しさだけではなく「自立」も重視されていることが指摘されている。中国でも「自立」が重視されているが、身の回りのことができるようになることを指し、日本では「自分で物事を考え主張できる(以下略)」ことを意味しているとの違いがインタビューにより明らかにされている。

 総合的な考察では、中国では保育者が遊びを中心とした新しい理念の実践をしたくても、長年の保育スタイルや親の要望がそれを妨げているとしている。なお、当然のことながら、中国と言っても地域差が大きく、一言で「中国の保育者」と定義することは難しいとの断りがある。今後の課題として、日本の保育園との比較を行いたいとされているので、成果を期待したい。