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ブックガイド『英国の社会的養護当事者の人権擁護運動史-意見表明による劣等処遇克服への歩み-(Care Less Lives: The Story of the Right Movement of Young People in Care)』

更新日: 2014年11月17日

編著 著者:マイク・スタイン、訳者:津崎哲雄
出版 明石書店、2014(2011)
定価 4800円+税
ISBN 978-4-7503-4066-1

本書は、これまでの英国における「若者自身はどのように『社会的養護』を認識し、体験してきたのであろうか?」という問いに答えるものであり、「社会的養護当事者が自らの権利を回復するために起こした運動がどのようなものであったか」について明らかにする事を目的としている。現在では大多数の人々にとっては当たり前の事として捉えられるかもしれない「人並みの暮らしをする」ということさえ、当時の英国の「若者」にとっては、自発的に望み、行動を起こさなければ実現の兆しすらも見えてこないものであった。本書は全13章から成り、その中でいくつかの運動の内容が紹介されている。そうした運動を通し、社会に対して様々なメッセージが発信されてきたが、その真意はいかなるものであったのか。本書を手に取る事でそれは明らかとなるだろう。

本書の具体的内容は以下の通りである。
第1章 なぜこのような人並でない暮らしをしなければならないのか?
第2章 リーズ市アド-リブとは何か:底辺からの声(意見表明)
第3章「養護児童の声」:社会的養護で暮らす若者の声を社会に拡げる
第5章「養護児童の声」運動は成功したか?
第6章 全国社会的養護児童協会(NAYPIC):初期の歳月(1978~1983年)
第6章 みんなで担う社会的養護(Sharing Care)
第7章「非白人として社会的養護で暮らす」
第8章 社会的養護で暮らす若者の願いと感情
第9章 NAYPIC内のもめごと(騒乱)
第10章「意見表明’89」会議-新たなはじまりとなるか?
第11章 混乱の余波
第12章 ナショナル・ヴォイス(A National Voice)
第13章 衣服購入証制度廃止からゴミ捨て用ビニール袋禁止まで

本書を読み進めていくと、社会的養護当事者である「若者」の実直な思いを知り、「人並みの暮らし」とはどういうことかということについて改めて考えさせられるだろう。

本書の起源は1970年代はじめのリーズ市での出来事にある。その出来事とは、社会的養護のもとで暮らす子どもや若者が、自分の衣服を買う際に、指定されたリスト内でのみ購入可能な衣服購入証が必要とされていた事に対し、現金での購入を望んだというものである。つまり、それまでの社会的養護のもとにあった「若者」は、一般家庭の子どもや若者と同じように衣服を自分で選んで購入する自由すら認められていなかったということである。このような社会的養護と現実社会とのギャップの中にあっては、人並みの自由を得るのにさえ、自ら意見を表明していかなければならないということが伺い知れるだろう。なぜ「人並みの暮らし」ができないのか、その原因を「子どもや若者」が社会を大局的に捉えることから理解するなどということは困難なはずである。それゆえ、社会的養護自体が子どもに与える影響にも配慮が必要であるし、事前の保護としての予防策も必要とされてきた。そして、万全な予防策などは存在しないため、改善は常に必要とされるのである。そうした時に、社会的に十分な認知を得られなければ社会的養護は危機的状況に陥ってしまうだろう。今後、社会的養護を真の意味で成功、発展させるためにも我々は「運動」の渦中にある当事者の声に耳を傾けるべきではないだろうか。

本書は、子どもの人権をはじめあらゆる人権問題を研究対象とする人、サービス提供者として子どもや若者の意見表明の権利を具体的に保障する方法を思案している人、そして子どもの幸せを願う全ての人に手に取って頂きたい一冊である。