ブックガイド私がショックを受けた本2冊 最新医学が示す生態としての人のあり方

更新日: 2014年7月8日

編著 友田 明美(ともだ あけみ) 著
出版 診断と治療社、2012.01
定価 4,752円(税込)
ISBN 9784787819123

編著 モイセズ・ベラスケス=マノフ 赤根洋子訳、福岡伸一解説
出版 文藝春秋、2014.3
定価 本体2,200円+税
ISBN 9784163900353

20世紀の後半、我々人類の先端科学はヒトの心身が互いに深くかかわり合っている実態を科学として確かめ始めた。それまでは直観、理念、叡智、思想の世界の事柄であったことが、再現性のある測定可能な客観的事実に、つまり操作し、吟味し、検証が可能な領域へと移動し始めた。というよりも科学の方が領域を拡大させていった。ただし結果的には、広大な未知の世界の一端をのぞき見ただけのようだ。“己自身を知る”ことは容易ではない。

21世紀に入って、我々はそうした先端科学の動向を、より一般向け?の著作によって、わかりやすく解説してもらうことが出来るまでになっている。2冊の出版物を紹介したい。一冊は錐で深く穴を穿つように、最先端の脳科学研究によって明らかになった子ども虐待による脳のダメージの実態である1)。最先端の技術が、DVの「面前暴力」や罵詈雑言の「言葉の暴力」によって、子どもの脳が器質的なダメージを負っていく様が明らかにされている。「こころの現象」は「機能的な現象」であり、「器質的な現象」は「体の現象」に代表され、説明されるという思い込みは、もはや過去のものとしなければならない。そしてそこからしか本当の回復と予防の検討は始められない。

もう一冊の著作はズームレンズカメラで世界を見回すかのように、我々を取り囲む生態系の複雑で広大な世界を垣間見せてくれる2)。私自身はいくつかの記事にショックを受けた。例えば円形脱毛症が自己免疫疾患だって!じゃあかつて心理治療に通っていた彼らは自己免疫に問題があったのか?(何人かは胃腸の慢性的不調を示していた)とか、細菌と寄生虫に関する母体の炎症反応や免疫反応のありようが、自閉症や統合失調症の発症と深くかかわりあっているかもしれない?とか、勉強不足もここまで来たか、とちょっとガックリした。細菌と寄生虫をめぐる免疫と疫学の研究は、これまで人類の進歩とされてきた寄生虫の駆虫が、実は自己免疫疾患の増大、そして引き返し不能な人体をめぐる生物多様性・生態系の破壊を進めてきたかもしれないことを知らせている。知はそれが明らかとなる時、もはや手遅れの哀しさを伴う。それでも知は我々を前進させてきた。多くの難治の苦しみが、我々の思い上がりの苦汁を飲み込むことによって、これまでにない解決に向かうかもしれない。そう信じたい。

1.友田明美『新版いやされない傷―児童虐待と傷ついていく脳』診断と治療社、2012
2.赤根洋子訳、福岡伸一解説『寄生虫なき病』文芸春秋社、2014
Velasquez-Manoff, M.『An Epidemic of Absence. A new way of understanding allergies and autoimmune diseases.』Simon & Shuster, 2012