ブックガイド『発達・臨床心理学-子どもの自我発達への援助』

更新日: 2014年1月21日

編著 山添正著
出版 ブレーン出版、2002年

本書では、日本特有の家庭教育に見られるしつけや遊びの在り方および学校や友人などの集団に属する個としての在り方が、子どもの発達に対していかに影響を及ぼすかということについて事例研究を通してまとめられている。本書で紹介されている事例の選択には、筆者自身のスイスでの子育てにおいて、日本とヨーロッパの違いを強く認識した経験を通して培われた国際的な視点を強く感じとることができる。筆者は、これまでにも心理臨床家として児童相談所や教育センター、学校現場等数多くの事例に携わってきたことから、子ども家庭福祉や教育現場での子どものニーズに多角的に向き合ってきたといえるだろう。
本書内では以下のように、様々な問題を具体的に身近な問題としてイメージしやすいよう小見出しが付けられている。

第1章「現代日本の子ども」の「自我発達」の特徴
第1節「いじめ」の背景-現代日本の子どもの友人形成の特徴
はじめに
1.子どもの友人関係の時代的変化-学校化から学級化を経て小集団化へ
2.現代の子どもの友人関係の発達的特徴-受動性
3.親しさの関係(友人)の持続に必要なもの-意志
4.現代の子どもの友人作りに見られる「あせり」の思想と「孤立」の深層
5.「友人作り」と「公園デビュー」
6.友人関係形成のための能動性の発達の要因─他者の経験
7.「やさしい家族」とチック症状
8.「あせりの思想」と「子どもが孤独でいること」
第2節「不登校」の背景-日本の家族風土と子育て
はじめに
1.スイスで出会った子どもたち
2.日本の子どもの状況
3.安呑として子どもに接する
4.子育てを母親だけに任せない
5.幼児からの対等のつきあい
6.子どもは親と仲間で別人
7.父の機能-「切断」と「隔て」
8.相互理解への道-対決関係と親愛関係
9.自己主張と「橋渡し」
10.社会ルールの無知と被害意識
11.「他人」との相互理解の可能性
12.別れを意識した子育て
13.日本の父性の悲壮
14.日本的家族主義とアジア的家族主義
15.社会と子どもの世界とのパイプ

第2章臨床事例(分裂病と自殺)に見る日本人の「自我発達」の特徴
第1節日本人の「愛の受動性」についての臨床心理学的考察-「もらい子」妄想
はじめに
1.「もらい子」妄想とは?
2.家族来歴拒否症候群の臨床像
3.「もらい子」妄想の病因論
第2節日本人の「自我機能」についての臨床心理学的研究-「別れ」空想
はじめに
1.日本人の自殺のイメージ
2.「別れ空想」の発達的考察
3.日本人の「うらみ」の構造
4.所属集団の衛星としての日本人の自我

第3章「社会集団」と日本人の「自我発達」の特徴
第1節日本の「学校」と日本人の「自我発達」の特徴
はじめに
1.日本の小学校教育の特徴
2.シュタイナー教育と総合教育
3.日本人と大学教育
第2節多動児問題と日本人の「自我発達」の特徴
はじめに
1.日本の同調文化への不適応としての多動児
2.「ドラえもん」と多動児問題の理解
3.子どものADHDの症状の三要因
4.「多動性障害」の自伝的記述
5.多動児の主訴で来室したケースの検討
6.学校と家庭の認識のずれ(1)
7.学校と家庭の認識のずれ(2)
8.ADHDは一次症状、「多動」は二次症状?

第4章「市民」としての日本人の「個と家と公」の問題
第1節「居住空間」と日本人の「自我発達」と特徴
はじめに
第2節自我と居住空間
1.生活の質
2.スイスの障害児学級
3.福祉の量と質
第3節個室と家と社会
1.街並み
2.日欧自我構造の比較
3.個室と個人主義
4.日本人の自我の特徴
第4節不登校と日本人の自我
1.日本的自我と思春期
2.不登校児の自我
3.「他人」に閉ざされた自我
第5節日本人の「自己主張」
1.自己主張と一体化
2.日本的自己主張
3.自己主張と相互理解
4.自己主張とマナーの教育
5.自己主張とスポーツ
第6節しつけと日本人の自我
1.日本の伝統的しつけ
2.伝統的しつけのエイジェント
3.伝統的しつけの機能不全=自我の硬直化
4.自我機能不全の治療-ボランティア
第7節「市民社会」と日本人の「ジェンダー意識」の特徴
はじめに
1.夫は外、妻は内
2.日本の父親の「無責任」の構造
3.母親離れ出来ない「もう一人の子ども」としての日本の父親
4.「働く」ことについての現代の日本の思潮
5.「尊敬」についての心理的構造の文化差
6.現代の日本的父性と母性への提言

本書内では、最近の傾向として「自分以外に関心のない、友人からの『ずれ』も気にならない、『友人作りの下手な子』が日本中で増えているのではないか」といった仮説があることに対し、子どもの遊び空間の研究家である仙田(1992)の裏付けをもとに説明がなされている。また、タテの人間関係で形成されているとする中根(1967)の理論をもとに、現代の子どもはタテの人間関係の中では世話をされる側、つまり、より受動的な方へと自分のアイデンティティを置く傾向が強いといったことも事例とともに述べられている。さらに、日本人の自我形成に強く影響を与えるしつけと人間関係の構築の在り方についても国際比較を通して臨床的に考察されている。

本書には、今後グローバル化とローカル感覚とのバランスを取りつつ日本のこれからの子育ての担い手となるであろう方々、さらには若者理解、家族理解、友人理解に悩む多くの方々や組織内での身の振る舞い方が分かり難い方々にとっても、他者や自己を理解するための手がかりが数多く内包されているといえるだろう。

※『保育界』第473号(2014.1)からの転載