ブックガイド『ファミリーグループ・カンファレンス入門 子ども虐待における「家族」が主役の支援』

更新日: 2013年9月10日

編著 佐藤和宏・妹尾洋之・新納拓爾・根本顕著、林浩康・鈴木浩之編著
出版 明石書店/2011/12/02
定価 本体2,500円+税
ISBN 9784750335025

厚生労働省の福祉行政報告例によると、平成23年度に全国の児童相談所で受理した児童虐待相談件数は59,919件である。年々増加の一途を辿る虐待相談件数に対応し、子どもの安全を確保するためには、従来、児童相談所が行ってきた相談援助のケースワークではなく、強制的な危機介入を行う必要性が叫ばれている。一方で、そのケース一人ひとりには家族があり、家族が虐待環境から抜け出し、よりよい環境づくりを行うためには家族に対し何らかの支援が大切であることには変わりがない。虐待状況に陥っている、若しくは陥りそうな家族への支援として、どのような方法があり、何が有効であるか。家族支援の提案として、ファミリーグループ・カンファレンスの解説と親族里親の可能性の示唆及び、児童相談所の実践的取り組みを紹介しているのがこの一冊である。

本書はファミリーグループ・カンファレンスと親族里親について述べている第Ⅰ部と、神奈川県におけるファミリーグループ・カンファレンスの実践を紹介している第Ⅱ部との2部構成になっている。

第Ⅰ部第1章は、諸外国で実践されている当事者参画の実践であるファミリーグループ・カンファレンスについての解説である。ファミリーグループ・カンファレンス(FGC)とは、「拡大家族や友人・知人といったインフォーマル・ネットワーク(ファミリーグループ=FG)の潜在的能力を活用し、それらがソーシャルワーカーをはじめとする専門職とともに、子どもが安全かつ十分に養育されるための必要事項を話し合う公式の会議」であると説明している。公的機関、特に児童相談所が不適切養育を理由に家族とのかかわりを開始すると、児童相談所と家族は、対立関係若しくは、上下の関係に陥ることが多い。「子どもの安全」を第一に考え、そのために周囲の大人がみんなで話し合い、考えていくという観点からは、対立は無駄なエネルギー消費であり、パワーバランスはより均衡が保たれることが望ましい。そのための実践ツールとしてFGCの活用が示唆されている。インフォーマルな関係者が集まり、知恵を出し合うことで、ソーシャルワーカーから与えられたやり方としてではなく、みんなで考え、家族が主体性をもって子どもの安全な生活を保障できる環境づくりを考えていくという点で、家族及び関係者の潜在能力を引き出すことが期待できるのである。

ニュージーランドでは、FGCは法律により規定されており、親がFGCへの参画を拒否した場合、裁判所にケースは送致され、永続的な親子分離が決定されることになるという。日本ではこのような法規定がないため、親が参画するための動機づけが難しくはあるが、一時保護や児童養護施設に措置された子どもを家庭復帰させるための家族再統合に向けた取り組みとして、FGC活用の可能性を検討することが望まれる。

第2章で記されている親族里親について、日本では「2002(平成14)年9月、それまでの里親に関する要綱等が廃止されるとともに、里親制度に関する規定が新しくなされ、三親等内の親族を里親として認定することが可能となりましたが、積極的な運用を図るための規定とはなっていません。」としたうえで、子どもの視点で考えたとき、保護者との生活が困難であっても、親族と生活することの可能性とメリットを見出し、親族が社会的養護の受け皿として行政の支援を受けることの肯定的評価を示している。対して、親族であるが故の否定的評価も併せて示しており、双方を十分に検討したうえでなお、社会的養護の一つの可能性として視野に入れておくことは必要であろう。また、東日本大震災のような、大きな災害で養育者が不在となった子どもの受け皿としても柔軟な対応を検討されることが望まれる、としている。

第Ⅱ部第3章では児童相談所において、家族を支援する取り組みがどのように実践されているかを解説している。神奈川県の児童相談所で行われている実践の紹介と解説をおこなっている。FGCよりは、アメリカのオレゴン州で実施されているファミリーユニティ・ミーティングやFamily Team Decision-Making Meetingに近い形である。実践は、家族がファミリーグループをいかに拡大していくかをポイントとして支援を行っており、より本来のFGCに近づけることを期待している。いくつかの技法についても触れながら、家族も児童相談所もみんなで考え、今後の方向を総意によって決定していくプロセスを示している。この取り組みは、児童相談所はもちろん、子どもとかかわる仕事に就く方々や、家族支援の現場の方々にお知らせしたい。神奈川県のように、親子支援チームのような専従チームがない、という児童相談所の意見もあるだろう。市町村にはそのような専従チームを置くことは困難である、という意見もあるだろう。保育所は虐待を扱うことがメインではないので関係ない、という意見もあるかもしれない。学校では一つの家族に対してそんな悠長な時間を取る余裕はないと、お叱りを受けるかもしれない。しかしながら、ある課題・問題に対して行き詰ったとき、対立してしまったとき、膠着して棚上げになってしまったとき、問題解決を進めるツールとして活用することは可能である。問題を抱え、一人で悩み出口の見えない暗闇で立ち尽くすぐらいであれば、ぜひ参考にしてほしいカンファレンスの手法である。

ここでは六件の模擬ケースとの会話、とう形でいくつかの面接技法や課題の整理と考え方を紹介している。保護者と支援者が立の中で話し合いを進めていくのではなく、課題を外在化し共有していくことで、子どもの安全をどう保障するかという目標を設定し、協働する、という方法を示している。保護者と支援者、場合によっては子ども本人も交えての合同ミーティングを設定し、「支援プラン」という具体的に提示できる(目に見える)形でプロセスを明らかにし、目標を設定することで、双方の役割を明確化していくことが、現状の理解を深め、ともに親子再統合にむけて取り組むことができると考えられる。

支援プラン策定にあたっては、家庭引取りが目的ではなく、子どもの安全が保障されることが目的であることの明確化を示唆している。どうしたらより安全な生活を保障できるかを一緒に考えるため、保護者のストレングスを引き出すツールとして、サインズ・オブ・セーフティー・アプローチ(SoSA)や、三つの家といった方法を提案している。また、スケーリングクエスチョンやタイムマシンクエスチョン、ミラクルクエスチョンなどの解決志向アプローチの質問技法についても紹介している。さまざまな技法を駆使しながら家族の気づきを促し、希望を実現させ、子どもが安心して生活できる家庭環境づくりを目指す取り組みである。

第4章ではより具体的な4ケースへの活用事例として、概要・経過・ミーティングの内容及び考察をまとめている。また、事例に対するコメントとコメントへのリプライという形での振り返りも行っている。事例は実際のものではないが、どのようにミーティングを進め、どこにポイントを置くかといったことが細かく記されている。すべてがハッピーエンドとなるわけではなく、最初の目標とは違った形での終了となった例も挙げられている。支援者が目標とすることと、実際の結論は全く同じというわけではない。しかし、支援者と保護者、場合によっては子どもや親族等の関係者が一堂に会して話し合い、考え、決定していくことで当事者の思いが尊重された形をとること、また、そのプロセスを経ることで、納得や諦めも含めた現実的な「落としどころ」を関係者がみんなで探っていくことができると考えられる。

本書では神奈川県の児童相談所の実践を紹介しているが、FGCの実践は神奈川県に限ったことでも児童相談所に限ったことでもない。家族支援の現場では、さまざまな形でケース検討会議が行われている。困難な事例になればなるほど、出口のない会議になり、支援者が疲弊していく結果になるのではないだろうか。当事者である家族の参画を得ること自体が難関ではあるが、一つの取り組みとして現場に導入する事の可能性を探ってほしい。

最後に編者が「こうした場を設定する過程が専門職の新たな気づきを促し、当事者にとってもエンパワーメントやその後の生活における動機づけの促進につながると考えられます。」と述べている。日々、子どもたちや保護者の支援を行う現場で働いている方々が、こうした「過程」を経ることで「虐待」という課題を抱えた家族を支援する手ごたえを感じてもらいたい。

※「保育界」第468(2013.08)から転載