ブックガイド『国連子どもの代替養育に関するガイドライン』

更新日: 2013年8月14日

編著 特定非営利活動法人子どもの村福岡 編
出版 福村出版/2011.12.10
定価 本体2,000円+税
ISBN 9784571420412

本書は、「国連子どもの代替養育に関するガイドライン」の日本語訳とSOS子ども村と福岡の取り組みが、SOS子どもの村、大学、児童相談所、NPO、ファミリーホームなどの関係者から現場の実状とともに語られている。

想定される読者は、社会的養護に携わる支援者すべてである。本書が伝えようとすることは、日頃の現場実践の中にいる方はもちろん、特に国際的な社会的養護に関するグローバルスタンダードを知ることで、日本における社会的養護がどのような位置づけにあるのか、改めて警鐘を鳴らすことである。

本書は2部構成になっており、第1部は国連子どもの代替養育に関するガイドラインの日本語訳と原文、そして本ガイドラインにおける解説、そして第2部は、本ガイドラインに対するSOS子どもの村の実践と福岡市における家庭的養護の拡大、そして児童相談所や里親という今の現場に即した問題提起である。
そのため、本書の構成は、第1部では、グローバルスタンダードである国連の代替養育に関するガイドラインから現場に対する変化への可能性をトップダウンに示唆するビジョンであるのに対し、第2部は、日本の現場の社会的養護の関係者から、そのガイドラインにどのように迫っていくのか、その工夫と変化への余地をボトムアップに描いている。

このような二つの視点を有しているため、本書は国際的なガイドラインの単なる日本語訳だけでなく、そのガイドラインから日本の社会的養護関係者が学ぶべき点、ガイドライン運用の際の問題点やまだまだクリアしなければならない点などが、明確かつわかりやすく提示している。

第1部から詳しく見ていくと、国連の代替養育に関するガイドラインの目次はⅠ目的・Ⅱ一般原則と展望・Ⅲガイドラインの範囲・Ⅳ代替養育の必要性の防止(Preventing the need for alternative care)・Ⅴ養育提供の枠組み・Ⅵ最適な養育形態の決定・Ⅶ代替養育の提供・Ⅷ居住国以外での子どもへの養育提供・Ⅸ緊急事態における養育に分かれている。
 第一原則として、家族は社会の基本的集団であり、子どもの発達、ウェルビーイングと保護のための本来の環境であり、家族が子どもを養育する役割を果たすために、各国はさまざまな支援を確保しなければならないと指摘している。だが、危険にさらされている子どもの場合には、子どもの最善の利益に向けた意思決定(Determination of the best interests of the child)の姿勢こそ、重要な支援プランを考える際に立ち返るべきポリシーとなることを伝えている。
 解説としての各論考では、“国連ガイドラインを俯瞰して実行可能性を探る”、“EUモデルによる国連ガイドラインの位置づけ”、“社会的養護の現状と国連ガイドラインの影響および課題”という内容について、それぞれ大学有識者、関係者から解説が加えられている。

先に紹介したガイドラインの第一原則だけを読むとわかりにくいような部分も、解説の論考では、「子どもが実親や自分の家族と暮らせるよう、国は万全の対策を確保する必要性」と「代替養育はあくまでも最終手段であり、定期的なアセスメントとともに代替養育の環境や機関は子どもの最善の利益に沿った適切なものを常に追求すること」といった説明が、わかりやすくちりばめられている。
また、ガイドラインには各国の子どもたちに即した視点として、家庭を基盤としない施設の利用は、きわめて限定された特別な場合の短期間とし、大規模の施設を廃止するよう明記されている。子どもの最善の利益という誰しもが共有できる原則を、本書ではガイドラインの紹介だけでなく、解説論考でも何度もポイントに立ち返り、そしてその思いに共感した著者たちがガイドラインの内容を日本の代替養育の現状を提示しながら、わかりやすく解説している。

続く第2部は、実際に国連の代替養育に関するガイドラインと福岡での実践が詳しく紹介されている。第2部の章立ては“「SOS子どもの村」を日本に”、“福岡市における家庭的養護拡大の取り組み”、“福岡の新しい風(社会的養護が「市民の課題」になるまで)”、“里親からみた国連ガイドライン”、“国連ガイドラインへの期待(弁護士の立場から)”、“児童相談所の虐待対応と国連ガイドライン”、“光は西より(注:地方自治における社会的養護)”となっており、現場支援者と大学有識者による論考が多数掲載されている。
 興味深い点は、現場支援者たちが語る現場の実状、特に上手くいっている実践の紹介に留まらず、他機関との連携が困難な点や、現場における今までの経験に基づく文化・慣習のような問題点、職場内環境や職員研修、及び職員のメンタルサポート、地域住民との関係やまちづくりにおける協働として取り組まなければならないポイントなど、国連の代替養育に関するガイドラインのレベルに即した実践を提供するために、我が国が今現在抱えている様々な問題を、良い点、悪い点の両者から論じられている。
これらの論考は、国連ガイドラインというグローバルスタンダードと我が国の社会的養護の距離をわかりやすく解説したものであり、同時に、その距離を埋めるために、今後何をしていけばよいかを具体的に提案する実践的な内容が記されている。

時に我が国では、「社会的養護は各国の文化・特に司法制度に根差しているため、簡単には欧米と同様の機能へと、日本は方向転換ができない」と言われる。そのため、「研究者がいうような欧米と同様の社会的養護への水準は厳しい」という意見を耳にすることも少なくない。それは確かにその要因もありえる。
だが、国連の代替養育に関するガイドラインの一般原則は、「子どもの最善の利益に対する意思決定」という子どもを優先にした視点であった。さらに、子どものための評価は「適切なアセスメントに基づいて、少なくとも3か月ごとに評価をすべき」という指摘も明示されていた。
この指摘を省みると、確かに社会的養護に関わる私たち現場の支援者は確かに忙しいかもしれない。ただ、その忙殺される日頃の業務の中で、子どもを優先した予防実践・介入・支援&治療に関する現場の立場、そしてサービス・機関設立・マンパワーの確保・制度・法律というシステムの立場から振り返ると、その実践は果たして100%子どもの最善の利益に立っていると言い切れるであろうか?100%その視点に立っていないのであるならば、どのように私たちは、現在の取り組みを改善していけるのか?という問いが沸き起こる。
システムが変わらなければ何も変わらないという意見ならば、現場にいる私たちは、私たちの国のシステムを変えるために、どのように実際のソーシャルチェンジにつながる行動をしているであろうか?
本書は国連の代替養育に関するガイドラインという明確な軸を通して、多くの問いを読者に突き付け、考えさせ、そして肝心な行動に移し替えていくか、新しいパラダイムを変えていくための仕組みに満ち溢れている。

2013年現在、ハーグ条約批准に向けて舵を切った日本において、社会的養護にかかわる我々読者は、他機関との連携だけでなく、他国との連携にも否応でも対応しなければならない時期にきている。現場で、“そういう事例が来たときに考えればいいさ”という先延ばし行動は、実際の事例に直面した際に、子どもの最善の利益に対する意思決定には反する可能性が高い。
「言うは易し、するは難し」である一方、現状のアイデアで虐待問題と現場の疲弊度を解決できないのであれば、新しいアイデアを考え実践する時期にきていることは皆うすうす感じ始めている。「いろいろ難しいよね・・・」と語っていても何も変わらないからだ。
2013年現在、自らの実践、日本の現状、国連のガイドラインという一つ先を行くビジョンを知るために、本書は多くの可能性と新たなアイデアと基準を現場の支援者、研究者、そして政策決定者に示唆する良書であると考えられる。