ブックガイド『心理学で学ぶ!子育て支援者のための子育て相談ガイドブック』

更新日: 2013年6月28日

編著 神村富美子
出版 遠見書房/2013.03
定価 1,995円(税込)
ISBN 978-4-904536-13-1

子育て支援にかかわる専門職の方に対し、その支援をするのが、研究者としての評者の立場だが、現場の保健師等に行う研修を行う中で、近年よく耳にするのは、人格障害と思われる地域住民への対応や支援の難しさである。問題が複雑で、批判されながらも依存され、とにかく大変だ、という。しかし、その原因は、専らその住民によるものだけではないと考えている。保健の専門職としての従来の訓練は、相談時の「態度」に焦点をあて、「積極的傾聴」を心がけ「共感的理解」をスキルとして磨くことに専念してきた。このような専門職は、人格障害の人にとっては、一番、カラミやすい。

人格障害の有病率が近年急に増加したというより、この言葉が広く知られるようになった面が大きいのだろう。昔の教科書にはなかったので、ただ「扱いにくい人」だと、その概念を正確には学ばずに、ちょっと専門家ぶって言葉だけ口にしている専門職も少なくないだろう。核家族化や父親不在に近いなかでの育児になっていることから、育児に困難を覚えるケースと、もともと人格障害の傾向があるために困難をより強く感じるケースとは、なかなか見分けがつかない。症状だけを見れば強い不安障害からくるものなのか、もともとの人格障害なのか、あるいはそれらの合併なのか、精神科医でもしっかりと勉強していないと鑑別はできない。

相談援助をする専門家ならば、身体面のケアに関する知識や情報を提供して終わり、ではない。面談時の心理的な態度やスキルが必要な上、最新の精神医学の知識が必要である。これまで精神医学的な学びを重視してこなかったのは、一般住民健診での会話のように、メンタル面で問題が少ない、あるいはそれを巡って相談をする時間がない場面を暗黙に想定した中で、心理的「態度」をめぐる「心がけ」だったのだろう。

心の問題というと、すぐに心理学に期待がかかる。しかし、心理学といっても発達心理学やカウンセリングの他にも、ほとんど統計学や基礎医学、精神医学に近いものまで、実に幅が広い。評者が相談・支援者を支援する際、自分の書棚から、精神医学の診断基準のマニュアルや疾病概念を解説した専門書、何らかの疾患の対処法を扱った第一人者の翻訳書で読みやすそうなものなど、数冊、お貸ししては、役に立ちそうなら自分で買い求めてもらってきた。しかし、どうしても研究者向けの本になりがちであり、もっと実践的で具体的な知識とスキルを得るために書かれたものを探していた。クレームの多い親、とっつきにくい保護者、虐待が疑われるお子さん、複雑な事情のある家庭など、さまざまな保護者と直面する子育て支援者に役立つものが一冊にまとまったものがなかなか無かった。

そんな中、子ども総研の図書室で本書を見つけた。話の聞き方、カウンセリングやアドバイスのスキルだけではなく、「性格」や「こころの病」の解説もある。そして、それらが具体的な事例を通して、実にうまくまとめられている。必要なことが網羅されていながら、大きさも手に収まるコンパクトであることに驚いた。これなら心理学の知恵と技術が学べた上に、子育て相談に役立つに違いない。そこで、本欄で紹介しようと考えた。

「第1部 基礎知識を身につけよう」
      第1章 今の子育て事情とこれからの子育て支援
      第2章 カウンセリングと相談の違い
      第3章 表メッセージと本音
「第2部 実践をしてみよう」
      第4章 相談の実践
      第5章 他機関につなげたいとき
      第6章 虐待が疑われるとき
      第7章 こちらからアプローチしたいとき
「第3部 パーソナリティ(性格)と精神疾患の知識を得る」
      第8章 自分の癖を知る
      第9章 いろいろな保護者とその対応
      第10章 パーソナリティ障害が疑われる保護者とその対応
      第11章 精神疾患の保護者とその対応
「第4部 仕上げ──子育て支援のプロになる」
      第12章 支援のステップ
      第13章 情報集めと見立て
      第14章 戦略を練る

著者は、長年、子どもに関わる者への研修や個別の事例相談をされ、自身も子育て相談で活躍する臨床心理士である。平易な文章で身近に思える事例や題材が多く、相談業務について、特に知識や経験がなくても実践に生かせる内容が豊富である。

著者の課題としてきたことは、保護者に関する学びとスキルが弱いという点である。そこで問うてきた視点は、「保育所、幼稚園、児童館、学校、子育て支援センターのような施設では、親からの多種多様の子育て相談に職員が対応しているが、それらの相談を受ける職員は、親へのサポーターになりえているだろうか?」である。確かに、子育て支援をしている者の多くは保育士、幼稚園教諭、小学校教諭など「子ども」の専門家であって「親」への対応の仕方を体系的に学んできたことがない。しかし、このことは、その利用者である地域住民には、意外と知られていない。

本書は行政からの子育て相談のための職員研修の依頼に対し、1回3時間全12回の研修を組み立て実施したものをもとに執筆したものだそうだが、なるほど、実際に研修を対面で受けているように平易で具体的な表現が多く、題材として取り上げた事例は日々出会うようなリアルなものである。

随所に「レッスン」というコラムがあるが、これらは、対面の実習で行っていた部分を日常生活で行える課題にしたものである。一人では「目を通して終わり」になりがちだろう。職場の同僚らと互いに実習をしあうなら、講師は居なくても、本書のもともとの研修の一部を再現できるかもしれない。

評者が冒頭でその不足を懸念を示した精神医学の基本的な知識は、第3部で簡潔明瞭に網羅されている。類書は、医学的な知識が大半か、あるいはそれらが欠落した実習的な内容かにわかれるが、本書はバランスよく、またどの章でも、実践と知識が融合した形で展開されている。本書は、実用的な入門書であるが、その先の課題が出てくれば、より専門的な本に進めばいい。そのための基礎として本書から始めることは、効率の点でもいいだろう。

保育所や幼稚園、学童保育、小中学校の先生、各支援施設の援助職などの子育て支援者で、「難しい方々」からの「子育て相談」で困っている方も、まずは、こういった本で、保護者である成人の心の理解と、相談スキルを学ぶと、日々の業務がかなり楽になられることだろう。人格障害に関する知識も、単に精神医学的な知識を得るだけではなく、その視点の中で理解すれば、言葉を振り回して消耗する、ということにはならないだろう。

このような本は、もっと多く存在しても然るべきだが、意外に類書が少ない。本書が子育てを支援している専門家の役にたち、保護者と児に恩恵が波及することを願う。